社内会議とプレゼン
第6部 ・ 第49章
会議を進行し、議題ごとに提案・質問・補足ができ、相手の面子を潰さずに反対を述べられ、数字とグラフを使った短いプレゼンができるようになる。
会議は、語学力よりも「場の読み方」が問われる場面です。タイの会議では、日本以上に発言の順序が意識され、反対意見は独特の迂回路を通ります。この章では、進行・提案・賛否・プレゼンの定型表現を押さえたうえで、タイの職場文化の核心にある เกรงใจkreeng-jai という感情を扱います。この一語を理解しているかどうかで、会議での振る舞いがまるで変わります。
この章のゴール:会議を進行し、議題ごとに提案・質問・補足ができ、相手の面子を潰さずに反対を述べられ、数字とグラフを使った短いプレゼンができるようになる。
49-1タイの会議 ── 発言の順序と、沈黙の意味
タイの会議で最初に戸惑うのは、誰も口を開かない時間です。議長が意見を求めても、しばらく誰も答えない。日本人はここで沈黙に耐えかね、自分が話し出してしまいます。しかしこの沈黙には理由があります。タイの職場では年齢と役職による序列が強く、発言には順序があると考えられています。若手が先に意見を述べると上位者の考えを先取りしたことになり、上位者の立場を危うくする。だから若手は待つのです。つまり沈黙は「意見がない」ではありません。次の3つのどれかです。
会議の沈黙が意味する3つのこと
- ① 順番待ち … 上位者が先に話すのを待っている。
- ② 消極的な不同意 … 賛成できないが、面と向かって言えない。
- ③ 判断保留 … 持ち帰って上司に確認したい。
①なら、上位者に水を向ければ流れ出します。②と③は、その場で結論を出そうとしても出ません。ここで押し切ると、表面上は合意が取れたように見えて、あとから実行されないという最悪の結果になります。
เกรงใจ ── タイの人間関係を動かしている感情
เกรงใจkreeng-jai は、この本で最も重要な文化語です。直訳すれば〔恐れる+心〕。相手に負担・迷惑・気まずさを与えたく
ないという気持ちを指します。日本語の「遠慮」に近いのですが、範囲がもっと広く、作用がもっと強い。タイ人が เกรงใจkreeng-jai を感じるのは、たとえば次のような場面です。上司の提案に反対したいとき。無理な納期を断りたいとき。相手の間違いを指摘したいとき。頼まれごとを断りたいとき。会議で質問したいとき。いずれも「言えば相手が困る、あるいは相手が恥をかく」場面です。ここで働く力学が เสียหน้าsǐa-nâa 〔失う+顔〕=面子を潰すことへの回避です。タイでは、人前で否定されることは内容の問題ではなく、その人の価値の問題になります。だから否定は人前でしない。とくに部下の前で上司を、後輩の前で先輩を否定してはいけません。結果として何が起きるか。「はい」が本当の同意とはかぎらなくなります。ได้ครับ(できます)が「できません、と言えません」であることがある。ไม่เป็นไร(大丈夫です)が「困っていますが言えません」であることがある。日本人が「タイ人は言うことが変わる」と感じるとき、その多くは相手が変わったのではなく、最初の同意が同意ではなかったのです。ではどうするか。責めても直りません。相手が เกรงใจkreeng-jai を発動しなくて済む形で聞くのが唯一の方法です。具体的には3つ。① 二者択一で聞く。「できますか」ではなく「金曜と月曜、どちらが楽ですか」。断る負担が消えます。
と、断りが返ってくるようになります。なお、ไม่ต้องเกรงใจครับmâi tɔ̂ng kreeng-jai khráp (遠慮なさらないでください)という決まり文句もあります。食事をすすめるとき、席をゆずるとき、率直な意見を求めるときに使えます。
49-2会議を進行する
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| เริ่มประชุมกันเลยครับ | rə̂ əm prà-chum kan ləəi khráp | それでは会議を始めます |
| วันนี้มีสามเรื่องครับ | wan-níi mii sǎam rɯ̂ ang khráp | 本日の議題は3件です |
| วาระที่หนึ่ง | waa-rá thîi nɯ̀ng | 議題の第1 |
| หัวข้อต่อไป | hǔa-khɔ̂ ɔ tɔ̀ɔ-pai | 次の項目 |
| ขอเสนอว่า… | khɔ̌ɔ sà-nə̌ə wâa … | …を提案いたします |
| ขอถามหน่อยครับ | khɔ̌ɔ thǎam nɔ̀i khráp | ひとつ伺ってもよいですか |
| ขอเสริมนิดหนึ่งครับ | khɔ̌ɔ sə̌əm nít-nɯ̀ng khráp | 少し補足させてください |
| มีใครมีความเห็นเพิ่มเติมไหมครับ | mii khrai mii khwaam-hěn phə̂ əm-təəm mǎi khráp | ほかにご意見はありますか |
| สรุปว่า… | sà-rùp wâa … | まとめますと… |
| ไว้คุยกันอีกทีครับ | wái khui kan ìik thii khráp | この件はあらためて話しましょう |
| พักสิบนาทีครับ | phák sìp naa-thii khráp | 10分休憩します |
| วันนี้จบเท่านี้ครับ | wan-níi jòp thâo-níi khráp | 本日はここまでとします |
49-3賛成する、やわらかく反対する
賛成は簡単です。問題は反対です。タイ語では「反対です」と直接言うことはまずありません。代わりに使われるのが、程度を弱める ไม่ค่อยmâi khɔ̂i (あまり〜ない・第43章)と、いったん受けてから条件を出すという2つの技法です。
| ① 受ける | → | ② 弱める | → | ③ 代案 |
| น่าสนใจครับ | แต่ผมไม่ค่อยแน่ใจ | ถ้า…จะดีกว่าไหมครับ |
反対は3段構え。①で相手の面子を守り、③で自分の意見を出す。②だけで止めてもよい。
| 強さ | タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 賛成 | ผมเห็นด้วยครับ | phǒm hěn-dûai khráp | 賛成です |
| 強い賛成 | เห็นด้วยอย่างยิ่งครับ | hěn-dûai yàang-yîng khráp | まったく同感です |
| 受け止め | น่าสนใจครับ | nâa sǒn-jai khráp | 興味深いご意見です |
| 保留 | ขอเวลาคิดก่อนครับ | khɔ̌ɔ wee-laa khít kɔ̀ɔn khráp | 少し考えさせてください |
| 弱い反対 | ผมยังไม่ค่อยแน่ใจครับ | phǒm yang mâi khɔ̂ i nɛ̂ ɛ-jai khráp | まだ確信が持てません |
| 弱い反対 | ผมไม่ค่อยเห็นด้วยครับ | phǒm mâi khɔ̂ i hěn-dûai khráp | あまり賛成いたしかねます |
| 懸念 | อาจจะยากนิดหน่อยครับ | àat-jà yâak nít-nɔ̀i khráp | 少し難しいかもしれません |
| 代案 | ขอเสนออีกทางหนึ่งครับ | khɔ̌ɔ sà-nə̌ə ìik thaang nɯ̀ng khráp | 別案を出させてください |
| 代案 | ถ้า…จะดีกว่าไหมครับ | thâa … jà dii kwàa mǎi khráp | …のほうがよくないでしょうか |
日本の会議で多用される「持ち帰って検討します」に、タイ語はほぼ一対一で対応します。
ขอเวลาคิดก่อนครับkhɔ̌ɔ wee-laa khít kɔ̀ɔn khráp (少し考えさせてください)と ขอกลับไปคุยกับหัวหน้าก่อนครับkhɔ̌ɔ klàp pai khui kàp hǔa-nâa kɔ̀ɔn khráp (上司と相談してからにさせてください)です。
違うのは受け取られ方です。日本では消極的な断りと読まれがちですが、タイでは上位者に確認するのは当然の手続きと見なされ、まったく後ろ向きに響きません。その場で答えられないときは、遠慮なくこの型を使ってください。むしろ即答して後から覆すほうが信頼を損ないます。
49-4プレゼンテーションの型
プレゼンは会議よりむしろ楽です。一方的に話すので、聞き取りの負担がないからです。次の骨格をそのまま使ってください。
| 位置 | タイ語 | 発音 |
|---|---|---|
| 導入 | วันนี้ผมจะนำเสนอเรื่อง…ครับ | wan-níi phǒm jà nam-sà-nə̌ə rɯ̂ ang … khráp |
| 構成 | มีทั้งหมดสามหัวข้อครับ | mii tháng-mòt sǎam hǔa-khɔ̂ ɔ khráp |
| 展開 | หัวข้อแรกคือ… | hǔa-khɔ̂ ɔ rɛ̂ ɛk khɯɯ … |
| 展開 | ต่อไปเป็นหัวข้อที่สองครับ | tɔ̀ɔ-pai pen hǔa-khɔ̂ ɔ thîi sɔ̌ɔng khráp |
| 資料 | ตามที่เห็นในสไลด์ครับ | taam thîi hěn nai sà-lai khráp |
| 資料 | กราฟนี้แสดงให้เห็นว่า… | kráap níi sà-dɛɛng hâi hěn wâa … |
| まとめ | สรุปคือ… | sà-rùp khɯɯ … |
| 締め | ขอบคุณครับ มีคำถามไหมครับ | khɔ̀ɔp-khun khráp mii kham-thǎam mǎi khráp |
49-5数字とグラフを読み上げる
プレゼンの中身は、たいてい数字です。第32章の数詞と第35章の比較が、そのまま道具になります。
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| เพิ่มขึ้น | phə̂ əm khɯ̂ n | 増加する |
| ลดลง | lót long | 減少する |
| เมื่อเทียบกับปีที่แล้ว | mɯ̂ a thîap kàp pii thîi lɛ́ɛo | 昨年と比べて |
| สิบห้าเปอร์เซ็นต์ | sìp-hâa pəə-sen | 15パーセント |
| ร้อยละสิบห้า | rɔ́ɔi-lá sìp-hâa | 15パーセント(文語的) |
| สามล้านบาท | sǎam láan bàat | 300万バーツ |
| ประมาณครึ่งหนึ่ง | prà-maan khrɯ̂ ng nɯ̀ng | およそ半分 |
| ตามเป้า / ต่ำกว่าเป้า | taam pâo / tàm kwàa pâo | 目標どおり/目標未達 |
| ไตรมาสแรก | trai-mâat rɛ̂ ɛk | 第1四半期 |
กราฟ ── 綴りの規則から外れる外来語
กราฟkráap (グラフ)は英語からの借用語です。綴り กราฟ を第7章の規則どおりに読めば、中子音 กร +長母音+末子音 -p
の死音節ですから低声 kràap になるはずです。ところが実際には高声 kráap で発音されます。外来語には、このように綴りから予想される声調と実際の発音がずれるものが少なくありません(第8章)。規則を疑う必要はなく、外来語だけは個別に覚えると割り切ってください。言い換えたければ แผนภูมิphɛ̌ɛn-phuum (図表)という純タイ語系の語もあります。こちらは規則どおりです。
49-6モデル会話
会話1 週次会議で進捗を報告し、遅れを説明する
では会議を始めます。1件目、プロジェクトの進捗について。
はい。現在およそ70%完了しております。
予定どおりですか。
申し訳ありません。2週間ほど遅れております。
原因は何でしょう。
工場からの納品が遅れております。先方とはすでに話をしました。
では、どう立て直しますか。
月末までに間に合うよう巻き返します。来週あらためて報告いたします。
わかりました。報告ありがとう。ほかに意見のある方は。
ケンは謝罪 → 事実 → 原因 → 対策 → 次の報告の順で話しています。日本の報告とほぼ同じですが、ひとつ違いがあります。原因を述べるとき、工場を責める語を足していないことです。会議の場で第三者を強く責めると、その場にいる全員が居心地を悪くします。
会話2 提案に穏やかに反対する
価格を10%下げることを提案します。
興味深いご提案です。ひとつ伺いますが、値下げした場合、利益はどうなりますか。
5%ほど下がるかもしれません。
なるほど。おっしゃることはわかりますが、まだ確信が持てません。
代わりにサービスを手厚くするほうがよくないでしょうか。お客様の満足度はそちらのほうが高いかもしれません。
うーん、それも面白いですね。
どちらもよい案です。少し考えさせてください。この件はあらためて話しましょう。「ไว้คุยกันอีกที」を額面どおり受け取らない
会話2の最後で部長が言った ไว้คุยกันอีกทีwái khui kan ìik thii (またあらためて話しましょう)は、タイの会議で最も頻出する締めのことばです。これは日本語の「検討します」とよく似ていて、本当に継続審議の場合と、実質的な不採用の場合の両方があります。見分け
なら生きています。期日がなければ、静かに保留されたと考えるのが実務的です。
を取りにいくことです。
49-7よくある失敗
① 沈黙を埋めてしまう。誰も話さないからと自分が話し続けると、若手はますます発言できなくなります。名指しで水を向け
と。② 人前で誤りを指摘する。正しさより先に、面子が傷つきます。数字の誤りは会議後に個別に。③ 「はい」を合意と受け取る。ได้ครับ のあと、miià-raithîipenhùangmǎikhráp(何か気がかりな点はありますか)と一度確か
มีอะไรที่เป็นห่วงไหมครับ
めると、本音が出やすくなります。④ その場で結論を出そうとする。タイの会議は決定の場というより合意を確認する場です。重要な案件ほど、会議前に関係者と個別に話を通しておくほうが確実に決まります。この点は日本と同じです。