商談・見積り・価格交渉
第6部 ・ 第50章
見積書を依頼し、価格・数量・納期・支払条件を交渉し、その場で決めずに持ち帰る言い方までできるようになる。
ここからが第6部の山場です。金額と納期が動く場面では、あいまいな一言が後で大きな損失になります。この章では、見積りを依頼し、価格を交渉し、条件を詰めて合意にたどりつくまでの流れを、そのまま使える形で身につけます。文法は新しく学びません。第32章の数量、第33章の時間、第35章の比較、第41章の条件文を、商談の順序に沿って組み直すだけです。
この章のゴール:見積書を依頼し、価格・数量・納期・支払条件を交渉し、その場で決めずに持ち帰る言い方までできるようになる。
50-1商談の場で何が起きているか
タイでの商談には、日本と似ているようで決定的に違う点がいくつかあります。最初にそれを押さえておくと、相手の言葉の裏側が読めるようになります。第一に、提示された価格は交渉の出発点です。市場での値切りほど露骨ではありませんが、B to B の見積りでも最初の数字は「これくらいから話しましょう」という意味を含んでいます。日本のように「これが正価です」と一度で終わることは少なく、こちらが何も言わずに受け入れると、むしろ「この会社は詰めてこない」と見なされます。第二に、その場で結論を出さないのが普通です。担当者が権限を持っていないことが多く、「持ち帰って上司に相談します」は逃げ口上ではなく実態です。逆にこちらが即答を迫ると、相手は断りにくさから「できます」と言ってしまい、あとで守られません。
| 第三に、☕ | 契約書より人間関係が優先されがちです。ただしこれは「書面がいらない」という意味ではありません。むしろ逆 |
で、良い関係を保ったまま条件を明確にするために、口頭で合意した内容を必ずその日のうちに書面やメールで確認する。これがタイでの実務の要です(第51章)。
タイ人ビジネスパーソンは、はっきり「できません」とはなかなか言いません。断りは次のような形で現れます。
คงจะยากkhong jà yâak (たぶん難しいでしょう)/ขอไปดูก่อนนะครับkhɔ̌ɔ pai duu kɔ̀ɔn ná khráp (ちょっと見てみますね)/เดี๋ยวจะแจ้งให้ทราบdǐao jà jɛ̂ɛng hâi sâap (後でお知らせします)。
💼これらが期限を伴わずに出てきたら、実質的な断りである可能性が高いと考えてください。逆に本当に検討している場合は、
必ず日付が付きます。ภายในวันศุกร์phaai-nai wan sùk (金曜までに)のように。
値切るときは、いきなり「安くして」ではなく理由を添えるのがタイ流です。数量を増やす、支払を早める、他社と比べている、長期取引を前提にする。どれかを口実にすると、相手も社内で説明しやすくなります。
条件は何か」を聞くのがコツです。
50-2商談の必須表現
まず全体像を表で押さえます。商談は「①依頼 → ②価格 → ③条件 → ④保留 → ⑤合意」の5段階で進みます。どの語がどの段階のものかを意識して覚えてください。
| 段階 | タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|---|
| ①依頼 | ขอใบเสนอราคา | khɔ̌ɔ bai-sà-nə̌ə-raa-khaa | 見積書をください |
| ขอตัวอย่างสินค้า | khɔ̌ɔ tua-yàang sǐn-kháa | サンプルをください | |
| ขอรายละเอียด | khɔ̌ɔ raai-lá-ìat | 詳細をください |
| 段階 | タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|---|
| ②価格 | ราคาเท่าไหร่ | raa-khaa thâo-rài | 値段はいくらですか |
| ราคานี้รวมภาษีหรือยัง | raa-khaa níi ruam phaa-sǐi rɯ̌ɯ yang | この価格は税込みですか | |
| ลดได้ไหมครับ | lót dâai mǎi khráp | まけてもらえますか | |
| แพงไปหน่อย | phɛɛng pai nɔ̀i | 少し高すぎます | |
| ถ้าสั่งเยอะ ลดได้ไหม | thâa sàng yə́ lót dâai mǎi | 多く注文したら安くなりますか | |
| ส่วนลด | sùan-lót | 値引き | |
| ③条件 | ขั้นต่ำเท่าไหร่ | khân-tàm thâo-rài | 最低ロットはいくつですか |
| ค่าขนส่ง | khâa-khǒn-sòng | 送料・運賃 | |
| เงื่อนไขการชำระเงิน | ngɯ̂ an-khǎi kaan-cham-rá-ngən | 支払条件 | |
| มัดจำ | mát-jam | 手付金・保証金 | |
| ส่งของได้เมื่อไหร่ | sòng khɔ̌ɔng dâai mɯ̂ a-rài | いつ納品できますか | |
| กำหนดส่ง | kam-nòt-sòng | 納期 | |
| รับประกัน | ráp-prà-kan | 保証する | |
| สัญญา | sǎn-yaa | 契約・契約書 | |
| ④保留 | ขอเวลาพิจารณา | khɔ̌ɔ wee-laa phí-jaa-rá-naa | 検討の時間をください |
| ขอปรึกษาหัวหน้าก่อน | khɔ̌ɔ prɯ̀k-sǎa hǔa-nâa kɔ̀ɔn | まず上司に相談させてください | |
| ⑤合意 | ตกลงตามนี้นะครับ | tòk-long taam níi ná khráp | これで合意ということで |
この表の ขอkhɔ̌ɔ は第27章で学んだ依頼の ขอkhɔ̌ɔ です。〔ขอ + 欲しいもの〕で「〜をください」、〔ขอ + 動詞〕で「〜させてください」。商談ではこの語がいちばん出番が多くなります。
| ขอ | + | ใบเสนอราคา | → | 見積書をください |
| 依頼 | 名詞 |
ขอ の後ろが名詞なら「〜をください」、動詞なら「〜させてください」。ขอปรึกษา=相談させてください。
① 単価:chínlábàat(1個250バーツ)── ละlá は「〜につき」。
ชิ้นละ250บาท
③ 比較:thùukkwàajâoɯ̀ ɯnpəə-sen(他社より10%安い)── 第35章の กว่าkwàa 。
ถูกกว่าเจ้าอื่น10เปอร์เซ็นต์
この3型に数字を差し込むだけで、価格の話はほぼ回ります。
50-3モデル会話
実際の商談を2場面。日本のメーカー駐在員ケンと、タイのサプライヤーの営業担当ノイ、その上司のソムチャイ部長のやり取りです。
会話1 見積り依頼と価格交渉
この商品に関心があります。見積書をいただけますか。
はい。1個280バーツです。
この価格は税込みですか。
まだ含んでおりません。運賃も別です。
うーん、少し高いですね。まけていただけませんか。
最低100個です。500個ご注文いただければ5%お引きできます。
1,000個ならどうでしょう。
上司に相談させてください。明日ご連絡します。
注目してほしいのは、ケンが一度も「安くしろ」と命令していない点です。แพงไปหน่อยphɛɛng pai nɔ̀i (少し高い)と感想を述べ、ลดได้ไหมlót dâai mǎi (下げられますか)と可能を問う。この二段構えが角の立たない値切り方です。
会話2 納期と支払条件を詰める
価格の件は先日お話しした通りで。1個258バーツです。
はい。それで、いつ納品いただけますか。
発注をいただいてからおよそ6週間です。
6週間は少し長いです。顧客が来月中に必要としています。
2回に分けて出荷するなら可能です。第1ロットは4週間で。
いいですね。それで支払条件は。
手付金30%、残りは納品後30日以内のお支払いです。
2日ほど検討のお時間をいただけますか。その後、確認のメールをお送りします。
結構です。ではこの線で。
会話2の最後、ケンは ผมจะส่งอีเมลยืนยันให้phǒm jà sòng ii-meen yɯɯn-yan hâi (確認メールをお送りします)と自分から申し出ています。これはタイでの商談における最重要のひとことです。口頭合意は、相手が悪意でなくても消えます。担当者が異動する、上司が別の記憶を持っている、単に忘れる。その日のうちに、決まった数字と日付だけを箇条書きにしてメールで送る。相手が返信で รับทราบráp sâap (了解しました)と書けば、それが実質的な合意記録になります。
50-4言い換えと応用 ── 同じ内容を強さ別に
商談では、同じことを言うにも「どれくらい押すか」を調節する必要があります。強さの段階を持っておくと、相手の反応を見ながら手を変えられます。
| 強さ | タイ語 | 発音 | ニュアンス |
|---|---|---|---|
| 弱 | ราคานี้พอจะลดได้บ้างไหมครับ | raa-khaa níi phɔɔ jà lót dâai bâang mǎi khráp | 多少なりとも下げる余地はありま |
すか
| 中 | ลดได้อีกหน่อยไหมครับ | lót dâai ìik nɔ̀i mǎi khráp | もう少しまけられますか |
| やや | ราคานี้สูงกว่าที่อื่นครับ | raa-khaa níi sǔung kwàa thîi ɯ̀ɯn khráp | 他より高いです(比較で押す) |
強
| 強 | ถ้าราคานี้ คงต้องขอคิดดูก่อน | thâa raa-khaa níi khong tɔ̂ ng khɔ̌ɔ khít duu kɔ̀ɔn | この価格なら考えさせてもらいま |
| ครับ | khráp | す |
逆に、こちらが売り手の側で断る・条件を付けるときの言い方も対で持っておきましょう。
その場で決めないのはタイでも普通ですが、何もかも保留にすると誠意がないと見られます。「決められる部分」と「持ち帰る部分」を分けて言うのが上手なやり方です。
(納期はこれで合意できます。価格については上司に相談させてください。)เรื่องrɯ̂ ang (〜の件)で話題を切り分けるのが鍵です。
商談の骨格
- 依頼は ขอkhɔ̌ɔ +名詞/動詞。末尾に หน่อยnɔ̀i と ครับkhráp を添える。
- 値切りは「感想+可能を問う」の二段:แพงไปหน่อยphɛɛng pai nɔ̀i → ลดได้ไหมlót dâai mǎi 。
- 条件提示は ถ้าthâa … ก็kɔ̂ɔ …(第41章)。数量・支払・納期のどれかと引き換えにする。
- 保留は ขอเวลาพิจารณาkhɔ̌ɔ wee-laa phí-jaa-rá-naa / ขอปรึกษาหัวหน้าก่อนkhɔ̌ɔ prɯ̀k-sǎa hǔa-nâa kɔ̀ɔn 。
- 合意したら ตกลงตามนี้นะครับtòk-long taam níi ná khráp 、そして必ず書面で確認。
50-5よくある失敗
日本語話者が商談で踏みやすい地雷を5つ挙げます。どれも文法の誤りではなく、正しいタイ語なのに関係を壊すタイプの失敗です。
ไม่มีปัญหาmâi mii pan-hǎa (問題ありません)、ได้ครับdâai khráp (できます)、สบายมากsà-baai mâak (余裕です)。これ
らはその場の空気を良くするための返事であることがあります。確かめ方は簡単です。数字と日付で聞き返すこと。
ここで曖昧な答えが返るなら、実際にはまだ確定していません。
タイでは、人前で相手を追い詰めることが最大の失点です。担当者が誤った数字を出したときも、その場で指摘して訂正させるのではなく、ผมเข้าใจว่า… phǒm khâo-jai wâa … (私は〜と理解していましたが)と自分の理解の問題として切り出します。
(価格は258バーツと理解していました。私の勘違いでしょうか。)── これで相手は面子を保ったまま訂正できます。
タイのサプライヤーが最終的に条件を動かすのは、多くの場合「この人とは長く付き合えそうだ」と思ったときです。
ความสัมพันธ์khwaam sǎm-phan (関係)、ความไว้ใจkhwaam wái-jai (信頼)、ความร่วมมือkhwaam rûam-mɯɯ (協力)。この
3語を交渉の場で自然に使えると、値切りの一言より効きます。
で、その後の数字が変わります。