初対面・自己紹介・名刺交換
第6部 ・ 第47章
初対面の相手に、名前・会社・部署・役職・担当業務を淀みなく言え、名刺を正しい作法で交換し、第三者を紹介でき、そのあとの雑談を無難に続けられるようになる。
ここから第6部、実践編に入ります。文法はもう一通り手に入りました。あとはそれを、実際の仕事の場面にどう置くかです。最初の場面は「はじめまして」。タイのビジネスでは、最初の30秒の振る舞いがその後の関係をかなりの部分まで決めてしまいます。ことばと同じくらい、順序と作法が効く場面です。
この章のゴール:初対面の相手に、名前・会社・部署・役職・担当業務を淀みなく言え、名刺を正しい作法で交換し、第三者を紹介でき、そのあとの雑談を無難に続けられるようになる。
47-1タイのビジネスの初対面 ── ことばの前に順序がある
第10章で ไหว้wâi (ワイ)の基本と手の高さを学びました。ビジネスの場では、そこにもうひとつ層が加わります。誰が先に、どの高さでワイをするかが、その場の上下関係の表明になるのです。日本の名刺交換で、訪問した側が先に差し出し、目下が低く構えるのと同じ構造です。実務での順序は、次の4段階だと覚えてください。
| ① ワイ | → | ② 握手 | → | ③ 名刺 | → | ④ 名乗り |
| 訪問側から先に | 相手が手を出したら | 両手で差し出す | 名前・会社・担当 |
ワイと名刺は同時にできない。必ずこの順に分ける。
①のワイは、初対面の同輩であれば親指があご、人差し指が鼻先。相手が明らかに年長・高位なら、もう少し高く上げます。ただしビジネスの場でのワイは、第10章で見た日常のワイよりやや控えめで、頭を深く下げすぎると芝居がかって見えます。軽く会釈する程度で十分です。②の握手は、都市部の企業では非常に一般的になりました。特に相手が外資系企業に勤めている場合、ワイを省いて握手☕だけということもあります。判断に迷ったら、こちらからワイをして、相手が手を出したらそれに応じるのが最も安全です。ワイをして相手が手を出さなければ、それで完結します。
タイのビジネスパーソンは、相手に応じて両方を使い分けています。年配のタイ人経営者にはワイ、若い外資系の担当者には握手、その中間なら「ワイをしながら軽く頭を下げ、そのあと握手」という合わせ技もよく見ます。日本人が失敗しやすいのは、ワイをしながら同時に名刺を差し出そうとすることです。手を合わせられないので、片手にカー
💼ドを挟んだ不自然な形になります。ワイ → 手を下ろす → 名刺、と必ず分けてください。
もうひとつ。女性に対して男性から握手を求めるのは、タイでは積極的にはしません。相手が手を出すのを待ちましょう。
名刺は นามบัตรnaam-bàt です。両手で、文字が相手から読める向きにして差し出します。ここまでは日本と同じです。差が出るのはそのあとです。日本では受け取った名刺を机の上に並べておきますが、タイでもすぐにしまってはいけない点は
一度読み上げるだけで、印象が大きく変わります。絶対にやってはいけないのは、受け取った名刺をズボンの後ろポケットに入れることと、その場で書き込みをすることです。前者は「相手の頭を尻に敷く」に等しい行為と受け取られます。頭を神聖視する文化と地続きの感覚です。
47-2自己紹介の型 ── 4つの文でできている
タイ語の自己紹介は、覚える文が多いように見えて、実は4つの型の組み合わせです。それぞれ第14章(เป็นpen )、第11章(語順)、第30章(前置詞)で学んだ構造がそのまま出てくるだけで、新しい文法はひとつもありません。
| ผม | + | ชื่อ / เป็น / ทำงานที่ / มาจาก | + | 名前・職種・社名・出身 |
| 私 | 名乗る述語 | 内容 |
述語を入れ替えるだけで、名前・職業・所属・出身の4文がすべて作れる。
| タイ語 | 発音 | 意味・使いどころ |
|---|---|---|
| ผมชื่อ… | phǒm chɯ̂ ɯ … | 私は…といいます(名前) |
| ผมชื่อ… นามสกุล… | phǒm chɯ̂ ɯ … naam-sà-kun … | 名は…、姓は…(改まった場) |
| ผมเป็น… | phǒm pen … | 私は…です(職種・立場) |
| ผมทำงานที่บริษัท… | phǒm tham-ngaan thîi bɔɔ-rí-sàt … | …社で働いています |
| ผมมาจากญี่ปุ่น | phǒm maa-jàak yîi-pùn | 日本から来ました |
| ผมรับผิดชอบเรื่อง… | phǒm ráp-phìt-chɔ̂ ɔp rɯ̂ ang … | …を担当しています |
| ผมดูแล… | phǒm duu-lɛɛ … | …を見ています(やわらかい言い方) |
| ยินดีที่ได้รู้จักครับ | yin-dii thîi dâai rúu-jàk khráp | お会いできてうれしいです |
日本語の自己紹介は「よろしくお願いします」で締めますが、タイ語にこれと同じ働きの決まり文句はありません。無理に訳そうとすると ฝากตัวด้วย のような、身内や弟子入りの場面でしか使わない表現になってしまいます。締めのことばは ยินดีที่ได้รู้จักครับyin-dii thîi dâai rúu-jàk khráp (お会いできてうれしいです)で十分です。もう一段丁寧にした
47-3会社・部署・役職・業種を言う
自己紹介でつまずくのは、たいてい名前ではなく所属の言い方です。部署と役職の語をまとめて押さえてしまいましょう。
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| บริษัท | bɔɔ-rí-sàt | 会社 |
| สำนักงานใหญ่ | sǎm-nák-ngaan yài | 本社〔事務所+大きい〕 |
| สาขา | sǎa-khǎa | 支店・支社 |
| โรงงาน | roong-ngaan | 工場 |
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| แผนก | phà-nɛ̀ɛk | 課・セクション(小さい単位) |
| ฝ่าย | fàai | 部・本部(大きい単位) |
| ตำแหน่ง | tam-nɛ̀ng | 役職・ポスト |
| ผู้จัดการ | phûu-jàt-kaan | マネージャー・部長 |
| หัวหน้า | hǔa-nâa | 上司・長〔頭+顔〕 |
| พนักงาน | phá-nák-ngaan | 社員・従業員 |
| ลูกน้อง | lûuk-nɔ́ɔng | 部下 |
| เพื่อนร่วมงาน | phɯ̂ an-rûam-ngaan | 同僚 |
| ฝ่ายขาย | fàai khǎai | 営業部 |
| แผนกบัญชี | phà-nɛ̀ɛk ban-chii | 経理課 |
| ฝ่ายบุคคล | fàai bùk-khon | 人事部 |
| แผนกจัดซื้อ | phà-nɛ̀ɛk jàt-sɯ́ɯ | 購買課 |
แผนกphà-nɛ̀ɛk と ฝ่ายfàai は、どちらも日本語では「部門」と訳せてしまいますが、規模が違います。ฝ่ายfàai のほうが
大きい単位で、その下に複数の แผนกphà-nɛ̀ɛk がぶら下がる、と考えてください。自社の組織図に当てはめて、自分の所属をどちらで言うか一度決めておくと迷いません。
業種の語も、初対面で必ず出てきます。ทำธุรกิจอะไรtham thú-rá-kìt à-rai (どんな事業をされていますか)と聞かれたときの答えです。製造業・工業はอุตสาหกรรมùt-sǎa-hà-kam 、商社・貿易はการค้าkaan-kháa 、輸出はส่งออกsòng-ɔ̀ɔk 、輸入は
นำเข้าnam-khâo 、建設は ก่อสร้างkɔ̀ɔ-sâang 、銀行は ธนาคารthá-naa-khaan 、自動車は รถยนต์rót-yon 、ITは ไอทีai-thii 。
いずれも前に ธุรกิจthú-rá-kìt (事業)を添えれば「〜業」になります。
47-4名刺のやりとりと、名前の呼び方
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| นี่นามบัตรของผมครับ | nîi naam-bàt khɔ̌ɔng phǒm khráp | これが私の名刺です |
| ขอนามบัตรได้ไหมครับ | khɔ̌ɔ naam-bàt dâai mǎi khráp | 名刺をいただけますか |
| ขอเบอร์ติดต่อได้ไหมครับ | khɔ̌ɔ bəə tìt-tɔ̀ɔ dâai mǎi khráp | 連絡先を教えていただけますか |
| ขอไลน์ได้ไหมครับ | khɔ̌ɔ lai dâai mǎi khráp | LINEを交換できますか |
คุณ+名前 ── タイ人は「下の名前」で呼び合う
タイでは、目上にも取引先にも下の名前を使います。คุณkhun +名(ファーストネーム)が標準形で、日本語の「〜さん」とほぼ同じ丁寧さです。姓で呼ぶことは、公式文書と表彰状以外ではまずありません。理由は簡単で、タイの姓は長く、しかも一族ごとに固有だからです。同じ姓の他人はほとんどいない代わりに、7音節を超える姓も珍しくなく、日常の呼びかけには向きません。そしてもうひとつ、ニックネーム(ชื่อเล่นchɯ̂ ɯ-lên )の文化があります。ほぼ全員が短い愛称を持ち、社内では役職者もニックネームで呼ばれます。โอ๋ǒo 、นิดnít 、ต๊อบtɔ́p のような1〜2音節の語です。名刺にニックネームが括弧書きされていることも多く、そこに書いてあればそれで呼んでよいという合図です。迷ったら初回は คุณkhun +名刺の名前で。相手が rîakphǒmwâatɔ́pkɔ̂ɔ-dâaikhráp(トップと呼んでください)と言ってくれ
เรียกผมว่าต๊อบก็ได้ครับ
たら、それ以降は คุณkhun +ニックネームに切り替えます。
47-5モデル会話
会話1 展示会のブースで
こんにちは。突然失礼いたします。
こんにちは。どうぞ。
ケンと申します。日本のサクラ社から参りました。こちらが私の名刺です。
ありがとうございます。ソムチャイです。トップと呼んでいただいて結構です。
はい、トップさんはどちらの部署でいらっしゃいますか。
営業部長です。海外のお客様を担当しております。
私は購買を担当しております。名刺を頂戴できますか。
もちろんです。どうぞ。お会いできてうれしいです。
こちらこそ。
流れはあいさつ → 名乗り → 会社 → 名刺 → 相手の所属 → 自分の担当 → 締め。日本の初対面とほぼ同じです。違うのは、名前のあとにニックネームの申し出が入りうる点だけです。
会話2 取引先を訪問し、上司を紹介する
こんにちは、トップさん。ご紹介させてください。
こちらは田中です。私の上司で、アジア市場を見ております。
こんにちは。お会いできて光栄です。こちらが私の名刺です。
ありがとうございます。田中です。タイは初めてです。
そうですか。今日は暑くありませんでしたか。
とても暑いですね。でもタイ料理がとてもおいしいです。
それは何よりです。どうぞおかけください。
第三者を紹介するときの型は ขอแนะนำkhɔ̌ɔ nɛ́-nam (ご紹介します)→ นี่คุณ…nîi khun … (こちらは…さん)→
เป็น… pen … (…です)の3手です。目上を紹介するときは เขาkhǎo ではなく ท่านthâan を使うと敬意が出ます(第45
章)。
47-6相手を知る質問と、雑談のネタ
名刺交換のあと、本題に入る前の数分をどう埋めるか。ここで沈黙してしまう日本人は多いのですが、タイのビジネスでは、この数分が本題と同じくらい重要です。人間関係を先に作ってから商売の話をする、という順序が強く残っているからです。
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| ทำงานที่นี่นานหรือยังครับ | tham-ngaan thîi-nîi naan rɯ̌ɯ-yang khráp | こちらは長いのですか |
| ทำงานที่นี่กี่ปีแล้วครับ | tham-ngaan thîi-nîi kìi pii lɛ́ɛo khráp | 勤続何年になりますか |
| บริษัทมีพนักงานกี่คนครับ | bɔɔ-rí-sàt mii phá-nák-ngaan kìi khon khráp | 社員は何名ですか |
| เคยไปญี่ปุ่นไหมครับ | khəəi pai yîi-pùn mǎi khráp | 日本へ行かれたことは |
| วันนี้รถติดไหมครับ | wan-níi rót-tìt mǎi khráp | 今日は道が混んでいましたか |
| กินข้าวหรือยังครับ | kin khâao rɯ̌ɯ-yang khráp | お食事はお済みですか |
| ชอบอาหารไทยไหมครับ | chɔ̂ ɔp aa-hǎan thai mǎi khráp | タイ料理はお好きですか |
安全:天気(อากาศaa-kàat )、渋滞(รถติดrót-tìt )、食事(อาหารaa-hǎan )、相手の会社の規模や歴史、日本への渡航経験、スポーツ。この5つを回せば、10分は持ちます。とくに食事の話は無限に伸びます。「昼は何を食べましたか」「その店はどこですか」だけで会話が続きます。危ない:王室に関する話題(法的リスクがあります。批評はもちろん、軽い冗談も絶対に避けます)、政治、宗教の優劣、収入、年齢や体型を直接からかう物言い。
ではなく、どう呼べばよいか・どう扱えばよいかを測るための質問です。年齢がわかれば พี่phîi (年上)/น้องnɔ́ɔng (年下)の関係が定まり、話しやすくなるからです。答えたくなければ笑ってかわして構いませんが、不快に思う必要はありません。
自己紹介のまとめ
- 順序は ワイ → 握手 → 名刺 → 名乗り。ワイと名刺は同時にしない。
- 名乗りは ชื่อchɯ̂ ɯ /เป็นpen /ทำงานที่tham-ngaan thîi /มาจากmaa-jàak の4型の組み合わせ。
- 締めは ยินดีที่ได้รู้จักครับyin-dii thîi dâai rúu-jàk khráp 。「よろしくお願いします」に当たる語はない。
- 呼びかけは คุณkhun +下の名前。ニックネームを申し出られたらそれに切り替える。
- 名刺は両手で。受け取ったらすぐしまわず、名前を声に出して確認する。
47-7言い換えと、よくある失敗
同じ内容を3段階の丁寧さで
同じ「担当しています」も、相手との距離で言い分けられると大人びて聞こえます。
「営業を担当しています」の3段階
- くだけた … ผมทำเรื่องขายครับphǒm tham rɯ̂ ang khǎai khráp
- 標準 … ผมดูแลเรื่องขายครับphǒm duu-lɛɛ rɯ̂ ang khǎai khráp
- 改まった … ผมรับผิดชอบฝ่ายขายครับphǒm ráp-phìt-chɔ̂ɔp fàai khǎai khráp
① 姓で呼ぶ。คุณยามาดะ と自分を名乗るのは構いませんが、タイ人相手に姓で呼びかけると、他人行儀を通り越して不自然です。必ず下の名前で。② คุณkhun を付け忘れる。名前だけを呼び捨てにするのは、かなり親しくなってからです。③ 名乗りが長すぎる。日本式に会社概要から入ると、相手は途中で興味を失います。名前・会社・担当の3点で一度止めるのがタイ式です。詳しい話は相手が聞いてきてからで十分間に合います。④ 雑談をとばして本題に入る。効率的なつもりが、「この人は人に関心がない」という評価になります。最低でも2〜3往復は世間話をしてから本題へ。
この章で使った文法
- เป็นpen /อยู่yùu による所属の言い方 … 第14章
- ขอkhɔ̌ɔ +名詞+ได้ไหมdâai-mǎi の依頼 … 第27章
- ท่านthâan など待遇による人称の選択 … 第12章・第45章
- 後置修飾による名詞句 ผู้จัดการฝ่ายขายphûu-jàt-kaan fàai khǎai … 第13章