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タイ語に時制はない ── 時の表し方

第3部 ・ 第20章

第3部の入口です。ここからしばらく、動詞まわりの表現を扱います。最初に片づけておきたいのは、多くの日本人がタイ語でつまずく最大の思い込み ──「タイ語の過去形・未来形は何か」という問いそのものです。答えは「ありません」。では、いつの話かをどう伝えるのか。この章で全体の地図を描きます。

この章のゴール:タイ語に文法上の時制がないことを理解し、時を表す語を正しい位置に置いて「昨日/今日/明日」を言い分けられる。第21〜24章で学ぶアスペクト標識の全体像がつかめる。

20-1「行った」をタイ語に直せない理由

ります。

khǎoเขาカオ
paiไปパイ
tà-làatตลาดタラート
彼は市場へ行く。/彼は市場へ行った。/彼は市場へ行くところだ。
この3つの日本語すべてに対応する。タイ語の側からは区別されていない。

動詞 ไปpai は、いつの出来事であっても ไปpai のままです。過去形も未来形も存在しません。これは「タイ語には過去を言う手段がない」という意味ではありません。時を表すことが動詞の義務になっていないという意味です。日本語や英語では、動詞を使う以上、話し手はいつの話かを必ず表明しなければなりません。「彼は市場へ行く」と言っ🇯🇵た瞬間、それは過去ではないと宣言したことになります。この義務的な表明が文法用語でいう時制(テンス)です。タイ語の動詞にはこの義務がないのです。

20-2時制(テンス)とアスペクト(相)は別のもの

ここで用語を1つだけ整理します。この区別が頭に入っていないと、第21章以降の説明がすべて曖昧に感じられます。

2つの概念

か。日本語で確かめてみましょう。「食べている」と「食べていた」を比べます。どちらも進行中という捉え方は同じで、違うのは今のことか過去のことかだけです。つまり「〜ている」の部分がアスペクト、「〜た」の部分が時制です。日本語は両方を持っています。

日本語時制アスペクト
食べる非過去
食べた過去完了
日本語時制アスペクト
食べている非過去進行
食べていた過去進行
食べてしまった過去完了

タイ語が持っているのは、このうちアスペクトだけです。「終わったところだ」「進行中だ」「経験がある」は語で表せます。しかし「それが昨日のことか今日のことか」は、動詞まわりの語では表しません。それは時を表す語(副詞)か、文脈が担当します。

時を表す語主語アスペクト標識動詞目的語
いつどう捉えるか

「いつ」と「どう捉えるか」は別の担当者が受け持つ。動詞そのものは何も表さない。

20-3時を表す語(1)── 日を数える語

タイ語で「いつ」を伝える最も基本的な方法は、時を表す語を1つ足すことです。まず日を表す語から覚えましょう。

タイ語発音意味成り立ち
เมื่อวานซืนmɯ̂ a-waan-sɯɯnおととい「昨日」+「さらに前」
เมื่อวานmɯ̂ a-waan昨日เมื่อmɯ̂ a =〜のとき
วันนี้wan-níi今日〔日 この〕
พรุ่งนี้phrûng-níi明日〔翌 この〕
มะรืนนี้má-rɯɯn-níiあさって「明日」のさらに翌
อาทิตย์ที่แล้วaa-thít thîi-lɛ́ɛo先週〔週 過ぎた〕
อาทิตย์หน้าaa-thít nâa来週〔週 次の〕
เดือนที่แล้วdɯan thîi-lɛ́ɛo先月〔月 過ぎた〕
เดือนหน้าdɯan nâa来月〔月 次の〕
ปีที่แล้วpii thîi-lɛ́ɛo去年〔年 過ぎた〕
ปีหน้าpii nâa来年〔年 次の〕

ここで注目してほしいのは、過去側が ที่แล้วthîi-lɛ́ɛo 、未来側が หน้าnâa という2語の組み合わせだけで規則的に作れることです。単位の語(週・月・年)を差し替えれば、いくらでも作れます。

phǒmผม

ไปเชียงใหม่ปีที่แล้ว

ポム

私は去年チェンマイへ行きました。

khǎoเขา
klàpกลับ
yîi-pùnญี่ปุ่น
dɯanเดือน
nâaหน้า
彼は来月日本へ帰ります。
raoเรา
miiมี
prà-chumประชุม
phrûng-níiพรุ่งนี
私たちは明日会議があります。
mɯ̂ a-waan-sɯɯnเมื่อวานซืน
fǒnฝน
tòkตก
おととい、雨が降りました。
aa-thítอาทิตย์
thîi-lɛ́ɛoที่แล้ว
phǒmผม
mâi-dâaiไม่ได้
paiไป
bɔɔ-rí-sàtบริษัท
先週、私は会社へ行きませんでした。
má-rɯɯn-níiมะรืนนี้
khǎoเขา
maaมา
thîi-nîiที่นี่
あさって、彼はここへ来ます。

หน้า の3つの顔

หน้าnâa は「顔」「前面」「次の」という意味を持つ語です。時間の話では「次の」ปีหน้าpii nâa は〔年 次の〕で

「来年」。ややこしいのは、空間では หน้าnâa が「前」を意味することです。時間の「前(過去)」は ก่อนkɔ̀ɔn で、หน้าnâa ではありません。ปีก่อนpii kɔ̀ɔn なら「以前の年」です。日本語の「前」に引きずられないよう注意してください。

20-4時を表す語(2)── 一日の中の時間帯と、大まかな時

次に、一日の中の時間帯です。すべて ตอนtɔɔn(〜のころ)を頭に付けて作ります。ตอนtɔɔn は「区間・部分」を表す語で、これがあることで時を表す語だとひと目でわかります。

タイ語発音意味
ตอนเช้าtɔɔn-cháo朝に
ตอนเที่ยงtɔɔn-thîang昼(正午)に
ตอนบ่ายtɔɔn-bàai午後に
ตอนเย็นtɔɔn-yen夕方に
ตอนกลางคืนtɔɔn-klaang-khɯɯn夜に
ตอนนี้tɔɔn-níi
เดี๋ยวนี้dǐao-níi今すぐ・近ごろ
เมื่อกี้mɯ̂ a-kîiさっき
เมื่อก่อนmɯ̂ a-kɔ̀ɔn以前は
สมัยก่อนsà-mǎi-kɔ̀ɔn昔は
ทีหลังthii-lǎngあとで
เดี๋ยวdǐaoすぐに・あとで

組み合わせも自由です。「昨日の朝」「明日の午後」は、日を表す語と時間帯の語を並べるだけで作れます。順序は大きい単位が先です。

mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
tɔɔn-cháoตอนเช้า
昨日の朝〔昨日 朝〕
phrûng-níiพรุ่งนี
tɔɔn-bàaiตอนบ่าย
phǒmผม
paiไป
hǎaหา
lûuk-kháaลูกค้า
明日の午後、私は顧客を訪ねます。
mɯ̂ a-kîiเมื่อกี้
khǎoเขา
thooโทร
maaมา
さっき彼が電話してきました。
mɯ̂ a-kɔ̀ɔnเมื่อก่อน
phǒmผม
tham-ngaanทำงาน
thîiที่
krung-thêepกรุงเทพฯ
以前、私はバンコクで働いていました。
sà-mǎi-kɔ̀ɔnสมัยก่อน
thîi-nîiที่นี่
mâiไม่
miiมี
ráanร้าน
aa-hǎanอาหาร
昔は、ここに食堂がありませんでした。
raoเรา
khuiคุย
kanกัน
thii-lǎngทีหลัง
dâaiได้
mǎiไหม
khrápครับ
あとでお話しできますか。
tɔɔn-klaang-khɯɯnตอนกลางคืน
phǒmผม
yùuอยู่
bâanบ้าน
夜は家にいます。

ตอนนี้ เดี๋ยวนี้ の違い

どちらも「今」と訳せますが、感じが違います。ตอนนี้tɔɔn-níiこの時点でという中立的な「今」。เดี๋ยวนี้dǐao-níi「今すぐ」「今どき」という語気の強い語です。

tɔɔn-níiตอนนี้
phǒmผม
yûngยุ่ง
khrápครับ

今は忙しいです。

maaมา
dǐao-níiเดี๋ยวนี้

今すぐ来なさい。

命令の響きが出る。目上には使わない。

なお เดี๋ยวdǐaoนี้níi が付かないと「あとで・ちょっと待って」という未来寄りの意味になります。1音節の有無で向きが逆転する点に注意してください。

20-5時を表す語をどこに置くか

位置の規則はきわめて単純です。文末、または文頭。この2か所だけです。

主語動詞目的語
文頭文末

時を表す語は文の両端に置く。動詞の直前は否定語・助動詞の席なので入れない。

khǎoเขา
paiไป
tà-làatตลาด
mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
彼は昨日市場へ行きました。
文末型。いちばんふつうの言い方。
mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
khǎoเขา
paiไป
tà-làatตลาด
昨日、彼は市場へ行きました。
文頭型。「昨日は」と時を話題として立てる感じになる。
khǎoเขา
mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
paiไป
tà-làatตลาด
彼は昨日市場へ行きました。
主語と動詞の間には入れられない。日本語の語順に引かれた誤り。
khǎoเขา
paiไป
mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
tà-làatตลาด
彼は昨日市場へ行きました。
動詞と目的語の間を割ることもできない。

2つ以上の時の語を重ねるときは、大きい単位から小さい単位へ並べます。日本語と同じ順序なので迷いません。

mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
tɔɔn-yenตอนเย็น
phǒmผม
jəəเจอ
khǎoเขา
昨日の夕方、私は彼に会いました。
aa-thítอาทิตย์
nâaหน้า
wanวัน
janจันทร์
tɔɔn-cháoตอนเช้า
来週の月曜の朝〔週 次の 日 月 朝〕

時を表す語の置き場所

20-6語ひとつで、過去にも未来にもなる

ここまでの規則を実感するために、まったく同じ文に時の語だけを差し替えてみます。動詞は一度も形を変えません。

phǒmผม
sɯ́ ɯซื้อ
rótรถ
私は車を買う。/私は車を買った。
これだけでは決まらない。文脈が決める。
phǒmผม
sɯ́ ɯซื้อ
rótรถ
piiปี
thîi-lɛ́ɛoที่แล้ว
私は去年車を買いました。
phǒmผม
sɯ́ ɯซื้อ
rótรถ
piiปี
nâaหน้า
私は来年車を買います。
phǒmผม
sɯ́ ɯซื้อ
rótรถ
thúk-thúkทุกๆ
hâaห้า
piiปี
私は5年ごとに車を買います。
習慣。時制でいえば「現在」に当たるが、タイ語では特別な形をとらない。

ります。タイ語で変わったのは文末の2語だけです。

จะ を足したくなる衝動を抑える

③を見て「未来なのに จะ がない」と不安になるかもしれません。しかしタイ語では、時の語が未来を示していれば

จะ はしばしば省かれますจะ は未来形の目印ではなく、話し手の意志や見通しを示す語だからです(第22章)。

逆に、時の語がまったくない文で未来だと伝えたいときは จะ が要ります。両方あってもよく、どちらか一方でもよい。この柔らかさがタイ語らしいところです。

3つ目の手段 ── 文脈

時を表す語もアスペクト標識も置かれていない文は、実際の会話にいくらでも出てきます。そのときは文脈が時を決めます。とくに、一度時を設定したら、その後の文では繰り返さないのがタイ語の作法です。

会話1 月曜の朝、オフィスで

mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
khunคุณ
kheenเคน
thamทำ
à-raiอะไร
kháคะ
ナムムアワーンクンケーンタムアライカ

昨日、ケンさんは何をしましたか。

phǒmผม
paiไป
tà-làat-náamตลาดน้ำ
khrápครับ
ケンポムパイタラートナームクラップ

水上市場へ行きました。

sà-nùkสนุก
mǎiไหม
kháคะ
ナムサヌックマイカ

楽しかったですか。

sà-nùkสนุก
mâakมาก
khrápครับ
tɛ̀ɛแต่
rɔ́ɔnร้อน
mâakมาก
khrápครับ
ケンサヌックマーククラップテーローンマーククラップ

とても楽しかったです。でもすごく暑かったです。

wan-níiวันนี้
tɔɔn-yenตอนเย็น
khunคุณ
wâangว่าง
mǎiไหม
kháคะ
ナムワンニートーンイェンクンワーンマイカ

今日の夕方はお暇ですか。

wâangว่าง
khrápครับ
miiมี
à-raiอะไร
rə̌əเหรอ
khrápครับ
ケンワーンクラップミーアライルークラップ

空いています。何かありますか。

paiไป
thaanทาน
khâaoข้าว
dûai-kanด้วยกัน
นะ
kháคะ
ナムパイターンカーオドゥアイカンナカ

一緒に食事に行きましょうね。

mɯ̂ a-waanเมื่อวาน
phǒmผม
paiไป
tà-làatตลาด
kinกิน
khâaoข้าว
lɛ́ɛoแล้ว
kɔ̂ɔก็
klàpกลับ
bâanบ้าน
昨日、私は市場へ行って、食事をして、それから家に帰りました。
時の語は文頭の1回だけ。3つの動作すべてが昨日のこととして読まれる。

この会話で、時を表す語は เมื่อวานmɯ̂ a-waanวันนี้ตอนเย็นwan-níi tɔɔn-yen の2回しか現れません。それ以外の文(「行きました」「楽しかったです」「行きましょう」)には、時の情報が一切書かれていません。すべて直前の設定を引き継いでいます。

20-7アスペクト標識の全体像 ── 第21〜24章の地図

時の語で「いつ」が言えるようになったら、次は「どう捉えるか」です。タイ語のアスペクト標識は7つ。ここで一覧にして、それぞれをどの章で扱うかを示しておきます。

発音位置表すもの
แล้วlɛ́ɛo文末完了「もう〜した」21
ได้dâai動詞の前過去の事実の確認21
เคยkhəəi動詞の前経験「〜したことがある」21
จะ動詞の前未来・意志・推量22
กำลังkam-lang動詞の前進行「〜している最中」23
อยู่yùu文末継続「〜している」23
ยังyang動詞の前未完了「まだ〜」21・23

表をよく見てください。7つのうち5つが動詞の前、2つが文末です。この位置は語ごとに固定で、入れ替えられません。

แล้วlɛ́ɛo を動詞の前に置いたり、กำลังkam-lang を文末に置いたりすると通じなくなります。

主語จะกำลังได้เคยยัง動詞目的語อยู่แล้ว

アスペクト標識の定位置。動詞の前に立つ組と、文末に立つ組がある。

そして重要なのは、これらは組み合わせられることです。前後の席が違うので、同時に使えます。

khǎoเขา
kam-langกำลัง
tham-ngaanทำงาน
yùuอยู่
彼は今仕事をしているところです。
phǒmผม
yangยัง
mâi-dâaiไม่ได้
àanอ่าน
私はまだ読んでいません。
未完了+事実の否定。第15章で見た形。
khǎoเขา
paiไป
lɛ́ɛoแล้ว
彼はもう行きました。
phǒmผม
khəəiเคย
paiไป
phuu-kètภูเก็ต
私はプーケットへ行ったことがあります。
phrûng-níiพรุ่งนี
phǒmผม
จะ
paiไป
hǎaหา
lûuk-kháaลูกค้า
明日、私は顧客を訪ねます。
時の語とアスペクト標識の併用。ビジネスの基本形。

タイ語の時間感覚と ไม่เป็นไร

タイ語に時制がないことと、タイ社会の時間感覚を結びつけて語る人がいますが、これは言語学的には根拠のない話です。時制のない言語は世界中にあり、その社会が時間にルーズだということはありません。とはいえ、実務上は覚えておくと役に立つ表現があります。ไม่เป็นไรmâi-pen-rai(大丈夫・気にしないで)です。約束の時刻に遅れた相手がこう言ったら、それは謝罪でもあり「問題ないですよ」という慰めでもあります。日程を確定させたいときは、กี่โมงkìi moong (何時に)と具体的に聞き返すのが確実です。

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