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人称代名詞と呼びかけ

第2部 ・ 第12章

タイ語の「私」と「あなた」は、日本語よりもさらに数が多く、選び方も複雑です。年齢・性別・親しさ・場面で語が変わり、選択そのものが相手への態度を表します。この章では、まず安全に使える語をしっかり固め、そのうえで実際に耳にする語の全体像を整理します。

この章のゴール:場面に応じた一人称・二人称を選べる。親族名称による呼びかけを理解し、初対面のタイ人を適切に呼べる。

12-1タイ語の人称は「関係」で選ぶ

英語の I は誰が誰に対して使っても I です。タイ語はまったく違います。日本語の「私・僕・俺・わたくし」に近いのですが、タイ語のほうが選択肢が多く、しかも親族名称が代名詞として日常的に使われるという大きな特徴があります。ですから「タイ語で『私』は何と言うか」という問いには、一語では答えられません。答えは「誰に対して言うのかによる」です。

人称の選択を決める4つの軸

💡• 親しさ ── 初対面か、親しい友人か。

12-2一人称 ── 自分をどう呼ぶか

タイ語発音使う人場面・ニュアンス
ผมphǒm男性標準。目上にも同僚にも使える万能形
กระผมkrà-phǒm男性非常に改まった。式典・軍・公的な場
ดิฉันdì-chǎn女性改まった標準形。仕事・初対面
ฉันchǎn主に女性くだけた。友人・同年代
หนูnǔu女性・子ども年長者に対して。「私」をへりくだって言う
เราrao男女本来「私たち」。親しい間柄で「私」にも使う
ข้าพเจ้าkhâa-phá-jâo男女書きことば・公文書・演説
กูkuu男女俗語。使わないこと(後述)
phǒmผมポム
penเป็นペン
khonคนコン
yîi-pùnญี่ปุ่นイープン
khrápครับクラップ
私は日本人です。(男性)
dì-chǎnดิฉันディチャン
tham-ngaanทำงานタムンガーン
thîiที่ティー
bɔɔ-rí-sàtบริษัทボーリサット
khâค่ะ
私は会社で働いています。(女性)
chǎnฉันチャン
chɔ̂ɔpชอบチョープ
aa-hǎanอาหารアーハーン
thaiไทยタイ
私はタイ料理が好き。(友人同士)
nǔuหนู
mâiไม่
sâapทราบ
khâค่ะ

🇯🇵ヌーマイサープカ

私にはわかりません。(若い女性が年長者に)

自分の名前を一人称に使う

タイ人は、自分のニックネームをそのまま「私」の代わりに使います。子どもだけの習慣ではなく、大人の女性も、親しい同僚同士でも使います。日本語で「たろうはね」と言うと幼く聞こえますが、タイ語では自然で、むしろ親しみを示す表現です。

náamน้ำナーム
paiไปパイ
dûaiด้วยドゥアイ
ナームも行く。〔ナーム 行く 一緒に〕
ナーム本人の発言。「私も行く」の意味。

12-3二人称 ── 相手をどう呼ぶか

タイ語発音相手場面・ニュアンス
คุณkhun男女標準。丁寧で安全。名前の前にも付ける
ท่านthân男女非常に敬意が高い。要人・僧侶・高位の上司
เธอthəə主に女性親しい間柄。恋人・友人。目上には使わない
แกkɛɛ男女かなりくだけた。親しい同輩のみ
มึงmɯng男女俗語。使わないこと(後述)
khunคุณクン
phûutพูดプート
phaa-sǎaภาษาパーサー
yîi-pùnญี่ปุ่นイープン
dâaiได้ダーイ
mǎiไหมマイ
khrápครับクラップ
あなたは日本語が話せますか。
thânท่านターン
phûu-jàt-kaanผู้จัดการプーヂャットカーン
maaมาマー
lɛ́ɛoแล้วレーオ
khâค่ะ
部長がいらっしゃいました。

คุณkhun を連呼しない

日本語で「あなたは」を繰り返すと不自然になるのと同じで、タイ語でも คุณkhun の連発は距離を感じさせます。実際の会話では、相手の名前や親族名称で呼ぶほうが自然です。

khunคุณ
kinกิน
khâaoข้าว
lɛ́ɛoแล้ว
rɯ̌ ɯหรือ
yangยัง
phîiพี่
kinกิน
khâaoข้าว
lɛ́ɛoแล้ว
rɯ̌ ɯหรือ
yangยัง

12-4三人称と複数形

タイ語発音意味注意
เขาkhǎo彼・彼女性別の区別なし。標準的
เธอthəə彼女二人称にもなる。文脈で判断
ท่านthânあの方敬意が高い
มันmanそれ・あいつ物・動物に使う。人に使うと侮蔑的

複数を明示したいときは、前に พวกphûak(〜たち)を付けます。名詞のあとに ทั้งหลายtháng-lǎai を置く形もありますが、こちらは硬い書きことばです。

พวกเรา / เขา / คุณพวกเรา
〜たち人称私たち

phûak は前に付く数少ない例外。複数を明示する。

phûak-raoพวกเราプアクラオ
paiไปパイ
dûaiด้วยドゥアイ
khrápครับクラップ
私たちも行きます。
phûak-khǎoพวกเขาプアクカオ
tham-ngaanทำงานタムンガーン
thîiที่ティー
roong-rɛɛmโรงแรมローンレーム
彼らはホテルで働いています。

ただし เราrao は単独で「私たち」の意味を持つので、พวกphûak は必須ではありません。誤解が生じそうなときだ付けると考えてください。

12-5親族名称による呼びかけ ── ここが本丸

タイ語の人称でもっとも重要なのは、実は代名詞そのものではありません。親族名称を、血縁のない相手にも使うという習慣です。日本語でも店員さんを「お兄さん」と呼ぶことがありますが、タイ語ではこれが体系的で、日常のほぼすべての場面をカバーします。

タイ語発音本来の意味他人に使うとき
พี่phîi兄・姉自分より少し年上の人(最頻出)
น้องnɔ́ɔng弟・妹自分より少し年下の人
ลุงlung伯父父より年上くらいの男性
ป้าpâa伯母母より年上くらいの女性
น้าnáa母方の叔父・叔母親より少し若い人(親しみがある)
อาaa父方の叔父・叔母親より少し若い人
แม่mɛ̂ ɛ年配の女性、市場の売り手など
พ่อphɔ̂ ɔ年配の男性

重要なのは、これらが一人称にも二人称にもなることです。年上の人と話すとき、相手を พี่phîi と呼び、その相手は自分のことを พี่phîi と言います。日本語の「お母さんが買ってきたよ」とまったく同じ構造です。

phîiพี่ピー
paiไปパイ
nǎiไหนナイ
khrápครับクラップ
(年上のあなたは)どこへ行くんですか。
phîiพี่ピー
paiไปパイ
tà-làatตลาดタラート
(年上の)私は市場へ行くよ。
同じ語が、話し手が変われば一人称になる。
nɔ́ɔngน้องノーン
chɯ̂ ɯชื่อチュー
à-raiอะไรアライ
khrápครับクラップ
(年下の)君、名前は何ていうの。
pâaป้าパー
khǎaiขายカーイ
phǒn-lá-máaiผลไม้ポンラマーイ
thîiที่ティー
tà-làatตลาดタラート
おばさんは市場で果物を売っています。

12-6名前・肩書きで呼ぶ

คุณkhun +名前は「姓」ではなく「名」

日本語では「田中さん」と姓で呼びます。タイでは名(ファーストネーム)คุณkhun を付けます。姓で呼ぶことはまずありません。書類上の氏名がどれだけ長くても、呼びかけは名だけです。

khunคุณクン
sǒm-chaaiสมชายソムチャーイ
khrápครับクラップ
ソムチャーイさん。
khunคุณクン
maa-liiมาลีマーリー
maaมาマー
lɛ́ɛoแล้วレーオ
khâค่ะ
マリーさんが来ました。

職業・肩書きで呼ぶ

タイ語発音意味呼びかけ例
อาจารย์aa-jaan先生(大学・専門家)อาจารย์ / คุณอาจารย์
ครูkhruu先生(小中高)ครู / คุณครู
หมอmɔ̌ɔ医者คุณหมอ
ผู้จัดการphûu-jàt-kaanマネージャー・部長ท่านผู้จัดการ
khun-mɔ̌ɔคุณหมอクンモー
khrápครับクラップ
phǒmผมポム
pùuatปวดプアット
hǔaหัวフア
khrápครับクラップ
先生、頭が痛いんです。
aa-jaanอาจารย์アーヂャーン
sɔ̌ɔnสอนソーン
phaa-sǎa-thaiภาษาไทยパーサータイ
thîiที่ティー
má-hǎa-wít-thá-yaa-laiมหาวิทยาลัยマハーウィッタヤーライ
先生は大学でタイ語を教えています。

12-7ニックネーム文化と、使わない語

ชื่อเล่น ── 誰もが持つ短い名前

タイ人はほぼ全員が、正式名(ชื่อจริงchɯ̂ ɯ-jing)とは別にニックネームชื่อเล่นchɯ̂ ɯ-lên)を持っています。生まれてすぐ家族が付けるもので、一音節が多く、น้ำnáam (水)、ฝนfǒn(雨)、ต้อยtɔ̂i

แนนnɛɛn のような語です。

正式名はサンスクリット由来で長く、日常では使われません。名刺にも履歴書にもニックネームが併記されることがあり、職場でも คุณkhun +ニックネームで呼び合います。正式名を無理に覚えようとしなくてよいのです。

会話1 着任のあいさつ

sà-wàt-diiสวัสดี
khrápครับ
phǒmผม
chɯ̂ ɯชื่อ
kheenเคน
khrápครับ
ケンサワッディークラップポムチューケーンクラップ

こんにちは。私はケンといいます。

sà-wàt-diiสวัสดี
khâค่ะ
dì-chǎnดิฉัน
chɯ̂ ɯชื่อ
maa-liiมาลี
khâค่ะ
rîakเรียก
náamน้ำ
kɔ̂ɔ-dâaiก็ได้
khâค่ะ

マリーサワッディーカディチャンチューマーリーカリアックナームコーダーイカ

こんにちは。私はマリーです。ナームと呼んでくださっても結構です。

khunคุณ
náamน้ำ
tham-ngaanทำงาน
thîiที่
nîiนี่
naanนาน
lɛ́ɛoแล้ว
mǎiไหม
khrápครับ
ケンクンナームタムンガーンティーニーナーンレーオマイクラップ

ナームさんはここで働いて長いんですか。

sǎamสาม
piiปี
khâค่ะ
phîiพี่
kheenเคน
maaมา
jàakจาก
yîi-pùnญี่ปุ่น
châiใช่
mǎiไหม
kháคะ

マリーサームピーカピーケーンマーヂャークイープンチャイマイカ

3年です。ケンさんは日本からいらしたんですよね。

châiใช่
khrápครับ
yin-diiยินดี
thîiที่
dâaiได้
rúu-jàkรู้จัก
khrápครับ
ケンチャイクラップインディーティーダーイルーヂャッククラップ

そうです。よろしくお願いします。

聞いても使わない語 ── มึงmɯngกูkuu

タイのドラマや街中で มึงmɯng(お前)と กูkuu(俺)を必ず耳にします。これはごく親しい同年代の間で使われる俗語で、仲の良さの証として機能する一方、赤の他人に使えば侮辱になります。本書の立場ははっきりしています。意味は知っておく。しかし自分では使わない。外国人が使うと、親しさではなく無礼と受け取られる危険が高いからです。タイ人の友人が自分に対して使い始め、しかもそれが十分に長い付き合いになってから、初めて検討すればよい語です。

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