あいさつと基本フレーズ
第1部 ・ 第10章
出会いから別れまでの基本のあいさつが言え、ワイの作法と ครับ khráp / ค่ะ khâ の使い分けができ、あいさつの語の声調を綴りから説明できるようになる。
第1部の締めくくりです。ここまでに学んだ声調・母音・子音字・末子音・声調規則は、すべてこの章のために積み上げてきました。これから出てくる語は、ひとつ残らず自分で綴りから声調を割り出せるはずです。「読める」という手ごたえを、実際のあいさつで確かめましょう。
この章のゴール:出会いから別れまでの基本のあいさつが言え、ワイの作法と ครับkhráp / ค่ะkhâ の使い分けができ、あいさつの語の声調を綴りから説明できるようになる。
10-1สวัสดี ── 朝も昼も夜も、これひとつ
タイ語のあいさつは สวัสดีsà-wàt-dii ひとつで足ります。英語の good morning / good afternoon / goodevening のような時間帯による使い分けはありません。朝でも夜でも、会ったときでも別れるときでも使えます。
| สวัสดี | + | ครับ / ค่ะ |
| あいさつ本体 | 丁寧の語尾 |
丁寧の語尾は、話し手が男性なら khráp、女性なら khâ。相手の性別ではない。
より改まった場ではอรุณสวัสดิ์à-run-sà-wàt(おはようございます)、
ราตรีสวัสดิ์raa-trii-sà-wàt(おやすみなさい)という文語的な言い方もありますが、ニュース番組や式典
で聞く程度で、日常会話ではまず使いません。まずは สวัสดีsà-wàt-dii だけを確実に。
ワイ ── ことばと同時に手を合わせる
สวัสดีsà-wàt-dii と言うとき、タイ人は胸の前で両手を合わせます。これが ไหว้wâi(動詞としては「ワイをする」)
です。手を合わせる動作そのものは พนมมือphá-nom-mɯɯ(手を合わせる)といいます。大事なのは手の高さが相手によって変わることです。高く上げるほど敬意が高くなります。日本のおじぎの深さと同じ感覚だと考えてください。
| 相手 | 手の位置 | 頭 |
|---|---|---|
| 僧侶・仏像・王室 | 親指が眉間、人差し指が額より上 | 深く下げる |
| 両親・恩師・目上の人 | 親指が鼻先、人差し指が眉間 | やや下げる |
| 同輩・初対面の相手 | 親指があご、人差し指が鼻先 | 軽く下げる |
| 目下・年下・店員 | 胸の前で軽く。ワイを返すだけでよい | 下げない |
ワイは「誰にでもすればよい」ものではありません。目下から目上へ先にするのが原則で、目上は受けて軽く返します。店員・タクシー運転手・ホテルのスタッフからワイをされたとき、日本人はつい同じ高さで返してしまいますが、タイ人は軽く会釈するか、胸の前で小さく返すだけです。丁寧すぎるワイは、かえって相手を困らせます。また、子どもにワイをする大人はいません。子どもがワイをしてきたら、頭を軽くなでるか微笑むのが自然な応答です。逆に絶対に高いワイをすべき相手は僧侶です。僧侶はワイを返しません。返さないのが正しい作法なので、無視されたと感じる必要はありません。
10-2ครับ・ค่ะ・คะ ── 文末で決まる丁寧さ
タイ語の丁寧さは、文末の1語でほぼ決まります。この語を落とすと、内容がどれほど正しくても、ぶっきらぼうな物言いになります。
| 話し手 | タイ語 | 発音 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| 男性 | ครับ | khráp | 平叙文・疑問文とも共通 |
| 女性 | ค่ะ | khâ | 平叙文・返事 |
| 女性 | คะ | khá | 疑問文・呼びかけ |
| 男性 | ครับผม | khráp-phǒm | より丁寧な「はい」 |
⚠ ค่ะ と คะ は、声調が違うだけの別語です
綴りの差はたった1つ、声調記号 ◌่ があるかないか。ค่ะ は下声 khâ、คะ は高声 khá。低子音 ค に ไม้เอก が付けば下声、短母音の死音節で記号なしなら高声 ── 第7章の規則そのままです。
💼この2つはタイ人でもSNSで書き間違えるほど紛らわしいのですが、音としては明確に違います。答えるときは下げる、たずね
るときは上げる。この対応で覚えてください。
ครับผม は「はい、かしこまりました」
男性が目上や取引先に返事をするとき、ครับkhráp だけでも十分ですが、ครับผมkhráp-phǒm とするとぐっと丁寧になります。日本語の「はい」と「はい、承知しました」の差に近い感覚です。電話口や会議での相づちに使うと、相手の印象が目に見えて変わります。女性には対応する形がなく、ค่ะkhâ をはっきり発音するのが同等の丁寧さになります。
10-3お礼とおわび
あいさつの次に使用頻度が高いのが、お礼とおわびです。どちらも ขอkhɔ̌ɔ(求める)で始まる語が中心になります。
| タイ語 | 発音 | 意味・使いどころ |
|---|---|---|
| ขอบคุณ | khɔ̀ɔp-khun | ありがとう(標準・目上にも使える) |
| ขอบคุณมาก | khɔ̀ɔp-khun mâak | どうもありがとう |
| タイ語 | 発音 | 意味・使いどころ |
|---|---|---|
| ขอบใจ | khɔ̀ɔp-jai | ありがとう(目下・親しい年下へ) |
| ขอบพระคุณ | khɔ̀ɔp-phrá-khun | 誠にありがとうございます(改まった場) |
| ขอโทษ | khɔ̌ɔ-thôot | すみません(謝罪・呼びかけ両用) |
| ขอประทานโทษ | khɔ̌ɔ-prà-thaan-thôot | 失礼いたします(かなり改まった謝罪) |
| ไม่เป็นไร | mâi-pen-rai | どういたしまして/気にしないで |
ขอโทษ は「すみません」とほぼ同じ広さ
日本語の「すみません」が、謝罪にも呼びかけにも感謝にも使えるように、ขอโทษkhɔ̌ɔ-thôot も謝罪と呼びかけの両方に使えます。道を尋ねるとき、店員を呼ぶとき、人の前を通るとき ── すべて ขอโทษครับ で始められます。ただし感謝の意味はありません。「わざわざすみません」のつもりで ขอโทษ と言うと、何を謝っているのか通じません。そこは ขอบคุณkhɔ̀ɔp-khun です。
ไม่เป็นไรmâi-pen-rai は、タイを象徴する言い回しとしてよく紹介されます。直訳は〔ない である 何か〕=
「何ということもない」。お礼への返事にも、謝罪への返事にも、トラブルへの反応にも使えます。
10-4調子と名前をたずねる
あいさつのあとに続く定型のやりとりです。ここまで来れば会話が成立します。
会話1 はじめまして
| ケン | サワッディークラップポムチューケーンクラップ |
こんにちは。私はケンといいます。
| ナム | サワッディーカディチャンチューナームカ |
こんにちは。私はナームといいます。
| ケン | クンナームサバーイディーマイクラップ |
ナームさん、お元気ですか。
| ナム | サバーイディーカクンケーンラカ |
元気です。ケンさんは?
| ケン | ポムコーサバーイディークラップインディーティーダーイルーヂャッククラップ |
私も元気です。お会いできてうれしいです。
💼ナム
インディーチェンカンカ
こちらこそ。
訪問した側が先に軽くワイをし、สวัสดีครับ と言います。手の高さは親指があごのあたり。相手が明らかに年長・高位なら、もう少し高く鼻先まで上げます。名刺はワイのあとに、両手で差し出します。ワイをしながら名刺を持たないこと。
です)。そして返事はすべて ครับผมkhráp-phǒm で。
10-5別れのあいさつ
別れぎわの表現は、相手との距離と場面で選びます。日本語の「さようなら/またね/お先に失礼します」の使い分けとよく似ています。
| タイ語 | 発音 | 意味・場面 |
|---|---|---|
| ลาก่อน | laa-kɔ̀ɔn | さようなら(やや改まった・長い別れ) |
| แล้วเจอกัน | lɛ́ɛo jəə kan | じゃあまた(親しい相手) |
| แล้วพบกันใหม่ | lɛ́ɛo phóp kan mài | また会いましょう(ややかしこまる) |
| ไปก่อนนะ | pai kɔ̀ɔn ná | お先に失礼します〔行く 先に ね〕 |
| โชคดี | chôok-dii | ではお元気で/幸運を |
| タイ語 | 発音 | 意味・場面 |
|---|---|---|
| สวัสดี | sà-wàt-dii | 別れのあいさつとしても使える |
会話2 別れぎわ
| ケン | ワンニーコープクンマーククラップ |
今日はどうもありがとうございました。
| ナム | マイペンライカ |
どういたしまして。
| ケン | ポムパイコーンナクラップ |
お先に失礼します。
| ナム | カドゥーンターンプロートパイナカ |
はい。お気をつけて。〔旅する 安全に ね〕
| ケン | クラップレーオヂャーカンクラップ |
はい。ではまた。
| ナム | レーオポップカンマイカ |
また会いましょう。
10-6会話を助ける短いことば
あいさつ代わりの質問
タイ人は、あいさつのつもりで次のように聞いてきます。本気で答えを求めているわけではありません。日本語の「どちらへ?」と同じ、社交的な問いかけです。
日本人が戸惑うのがこの2つの質問です。相手は情報を求めていません。「あなたに関心がありますよ」という合図なので、正直に予定を説明する必要はありません。
ไปpai だけ返しても、ไปธุระครับ でも十分です。逆に無視すると冷たい人だと思われます。日本語の「いい天気ですね」に近
い、関係を保つためのことばだと考えてください。
返事とお願い
| タイ語 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|
| ใช่ | châi | そうです |
| ไม่ใช่ | mâi-châi | 違います |
| เชิญ | chəən | どうぞ(席・入室・順番をゆずる) |
| นิดหน่อย | nít-nɔ̀i | 少し・ちょっと |
| เข้าใจไหม | khâo-jai mǎi | わかりますか |
| ไม่เข้าใจ | mâi khâo-jai | わかりません |
| พูดช้าๆ ได้ไหม | phûut cháa-cháa dâai mǎi | ゆっくり話してもらえますか |
が違います。照れ・困惑・謝罪・気まずさ・断りも微笑みで表されます。ですから、こちらの依頼に微笑んで応じたからといって、了解したとはかぎりません。逆に、失敗を指摘したときに相手が笑っても、ふざけているのではありません。関連して覚えておきたいのが เกรงใจkreeng-jai です。「相手に迷惑をかけたくない、気を遣わせたくない」といます。選択肢を示して選ばせるのが、相手を楽にする聞き方です。
10-7声調規則をあいさつで確かめる
最後に、この章で出てきた語を綴りから検算してみましょう。第2〜7章の規則が、すべてそのまま働いていることが確認できます。
| 語 | 綴りの分解 | 結果 |
|---|---|---|
| ครับ | 低子音 ค+短母音 a+末子音 -p(死音節) | 声調記号がなくても高声khráp |
| ค่ะ | 低子音 ค+ไม้เอก ◌่ | 下声khâ |
| คะ | 低子音 ค+短母音 -ะ(死音節) | 高声khá |
| ขอ | 高子音 ข+長母音 ɔɔ(生音節) | 上声khɔ̌ɔ |
| โทษ | 低子音 ท+長母音+末子音 -t(死音節) | 下声thôot |
| ขอบ | 高子音 ข+長母音+末子音 -p(死音節) | 低声khɔ̀ɔp |
| คุณ | 低子音 ค+短母音+末子音 -n(生音節) | 平声khun |
| ไม่ | 低子音 ม+ไม้เอก ◌่ | 下声mâi |
| ใหม่ | 導き字 ห+ม → 高子音扱い+ไม้เอก | 低声mài |
| ก่อน | 中子音 ก+ไม้เอก ◌่ | 低声kɔ̀ɔn |
| สวัสดี | ส+短母音(死音節)/導き字 ส+ว(死音節)/中子音 ด+長母音 | sà 低声・wàt 低声・dii 平声 |
表の最下段 สวัสดีsà-wàt-dii は、第1章の最初に出てきた語です。あのときは音をまねるしかありませんでした。いまは3音節すべての声調を、綴りから説明できます。これが第1部で手に入れたものです。