文字を書く・辞書を引く
第1部 ・ 第9章
タイ文字を正しい順序で書き、スペースの入れどころが判断でき、辞書を自力で引き、看板や掲示の語の切れ目を見つけられるようになる。
読めるようになったら、次は書けるようになり、自分で調べられるようになる番です。タイ文字には日本語の「とめ・はね・はらい」に当たる書き順の原則があり、それを外すと字が別物に見えます。そして分かち書きをしないタイ語では、「どこで語が切れるか」を見つける技術そのものが読解力です。
この章のゴール:タイ文字を正しい順序で書き、スペースの入れどころが判断でき、辞書を自力で引き、看板や掲示の語の切れ目を見つけられるようになる。
9-1タイ文字の書き順 ── すべてはマルから始まる
タイ文字の多くには、字のどこかに小さな輪があります。これを หัวhǔa(頭)といいます。日本語話者は最初これを「飾り」だと思いがちですが、まったく違います。マルは字の一部であり、しかも書き始めの位置を示す標識です。ここを外して書くと、タイ人には読めない字になります。
書き順の4原則
- ① マルから書き始める。マルのある字は、例外なくマルが出発点。
- ② 一筆で書く。マルを1周したら、ペンを離さずそのまま線につなげる。マルを別に描いてから線を足す、という
書き方はしない。
- ③ マルを回る向きは、マルから出ていく線の向きで決まる。右へ進む字は反時計回り、左や下へ抜ける字は時計回
りになる。迷ったら「線がどちらへ出ていくか」を先に見る。
- ④ 音節全体では、左の母音 → 子音 → 上下の母音 → 声調記号 の順。声調記号はいちばん最後。
④は日本語話者が最もつまずくところです。เก้า(9)を例に見てみましょう。読む順は k→âao ですが、書く順は紙の上の左から右です。
| เ | → | ก | → | า | → | ◌้ | ⇒ | เก้า |
| ①左の母音 | ②子音字 | ③右の母音 | ④声調記号 |
声調記号 ◌้ は子音字 ก の真上に置く。母音の上ではない点に注意。
声調記号の位置を間違えると、どの音節に掛かるのかが読み取れなくなります。声調記号は必ず頭子音字の真上。上に母音記号(-ิ-ี-ึ-ื)がある場合は、そのさらに上に重ねます。ที่thîi がその例で、ท の上に -ี、そのまた上に ◌่ が乗っています。
9-2マルのない字と、まぎらわしい字
44字のうち7字にはマルがありません。書くときは、マルがあるはずの位置=書き始めの位置から、同じ道筋をたどります。つまりマルを省いただけで、運筆は他の字と変わりません。
กธฆฌญ
| kɔɔ kài | thɔɔ thong | khɔɔ rá-khang | chɔɔ chəə | yɔɔ yǐng |
| 中子音・鶏 | 低子音・旗 | 低子音・鐘 | 低子音・木 | 低子音・女性 |
ฏฐ
| tɔɔ pà-tàk | thɔ̌ɔ thǎan |
| 中子音・突き棒 | 高子音・台座 |
逆に、マルの有無や小さな出っ張りだけで区別される字もあります。手書きで急ぐとつぶれてしまう部分なので、書くときは意識して大きめに作ってください。
| 組 | 違い | 覚え方 |
|---|---|---|
| บ / ป | ป は左の縦線が上に突き出る | 突き出た棒が旗ざお |
| ผ / ฝ | ฝ は右の縦線が上に突き出る | 出っ張りが1本増える |
| พ / ฟ | ฟ は右の縦線が上に突き出る | ผ→ฝ と同じ仕掛け |
| ข / ช | ข は左上に小さな出っ張りがある | ข は「こぶ付き」 |
| ช / ซ | ซ は右下に尾が付く | 尾が付くと濁る(ch→s) |
| ด / ต | ต は右上に鋭い角が立つ | とがっているほうが t |
| ล / ส | ส は右上に小さな旗が付く | 旗付きが s |
| อ / ฮ | ฮ は上に折り返しが付く | ひとかけ足して h |
また、ฎฏฐญ のように行の下に尾が伸びる字があります。この尾は、下に母音記号が付くときには省かれます。字が重なって読めなくなるのを避けるためです。
9-3印刷体・手書き体・看板の書体
教科書の文字は読めるのに、街の看板がまったく読めない ── タイ語学習者が必ず一度は味わう挫折です。原因は書体にあります。教科書や新聞で使われるのはマルのある書体(แบบมีหัว)です。一方、広告・看板・ロゴではマルのない書体(แบบไม่มี
หัว)が好まれます。日本語でいえば明朝体に対するポップ体のようなもので、マルが省かれたり、四角く角ばったり、極
端に細長くなったりします。マルという最大の手がかりが消えるため、初学者には別の文字体系に見えるのです。
装飾書体を読むコツは、マル以外の手がかりに切り替えることです。①上に突き出す線があるか(ปฝฟฬ)、②下に尾が伸びるか(ฎฏฐญ)、③右下に尾が付くか(ซฑ)。この3点は書体が変わっても残ります。そしてもうひとつ強力なのが文脈です。看板に出る語は数十種類しかありません。「入口」「出口」「トイレ」「駐車場」を形で覚えてしまえば、字を1つずつ読む必要はなくなります。
手書き体では、書き手によってマルが極端に小さくなったり、線がつながったりします。とはいえ日本語の崩し字ほどの変形はありません。タイ人の手書きは、活字とかなり近い形を保っています。
9-4分かち書きをしない ── スペースはどこに入れるか
タイ語は語と語のあいだを空けません。句読点もありません。ではスペースはまったく使わないのかというと、そうではなく、もっと大きな切れ目に使います。日本語の読点「、」と句点「。」の役割を、スペース1つが兼ねていると考えるとわかりやすいでしょう。
スペースを入れる場所
- ① 文の終わり。日本語の「。」に当たる。段落内では改行せずスペースだけで続ける。
- ② 節の切れ目。接続詞の前など、意味のまとまりの境目。日本語の「、」に近い。
- ③ 列挙の区切り。「A B C」のように並べるとき。
- ④ 数字・記号・外国語の前後。算用数字やアルファベットはタイ文字と続けず、前後を空ける。
- ⑤ 名前の姓と名のあいだ、敬称のあと。
- ⑥ ๆ の前(第8章)。
ผมเป็นคนญี่ปุ่น ผมทำงานที่บริษัทไทย
私は日本人です。タイの会社で働いています。
2文のあいだにスペースが1つ。文中は詰めて書く。
ราคา 250 บาท
値段は250バーツ。
算用数字の前後は空ける(原則④)。
「いまはむかしたけとりのおきなといふものありけり」── 古い日本語も語間を空けず、句読点もありませんでした。それでも読めたのは、漢字とかなが交ざることで視覚的な切れ目ができていたからです。タイ語にはその助けがありません。代わりに、語の切れ目を示す綴りの手がかりがあります。それを使うのが、この章の最後の節です。
改行の位置にも決まりがあります。タイ語では語の途中で改行してはいけません。日本語のように任意の位置で折り返すことはできず、語の境目でだけ折り返します。単語の切れ目を機械が判定する必要があるため、タイ語の組版は今も難しい処理とされています。
9-5辞書を引く
タイ語の辞書は、子音字44字の順 → 母音記号の順 → 声調記号の順という3段階で並んでいます。この順序を覚えれば、紙の辞書もアプリの一覧も自在に扱えます。
| 段階 | 何で並べるか | 例(同じ組の中での順) | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 第1 | 頭子音字(44字の配列順) | กิน → ขาย → นก → ปลา → สวย | |||
| 第2 | 母音記号(15の配列順) | กา → กิน → เก็บ → แก้ว | |||
| 第3 | 声調記号(なし → → ่ | → ้ | → ๊ | )๋ | ขา → ข่า → ข้า |
子音字の順序
第4・5章で学んだ44字は、辞書ではこの順に並びます。
ก ข ฃ ค ฅ ฆ ง จ ฉ ช ซ ฌ ญ ฎ ฏ ฐ ฑ ฒ ณ ด ต ถ ท ธ น บ ป ผ ฝ พ ฟ ภ ม ย ร ล ว ศ ษ ส ห ฬ อ ฮ
子音字44字の配列順(=辞書の順)
現代では使われない ฃฅ も、順序上の場所は保たれている。
母音記号の順序
頭子音が同じ語どうしは、次に母音で並びます。順序は次のとおりで、母音記号が書かれる位置(上・下・左・右)とは無関係です。
💡-ะ -ั -า -ำ -ิ -ี -ึ -ื -ุ -ู เ- แ- โ- ใ- ไ-
母音記号の配列順
母音記号のない語(暗黙の母音の語)が、いちばん先に来る。
ここが最大の疑問でしょう。เก็บkèp(しまう)は เ から始まって見えますが、辞書では ก の項にあります。ไป は ป の項、แล้ว は ล の項です。順になります。左に母音記号を見つけたら、その右隣の字を頭子音として引く。これだけです。
กา → กิน → เก็บ → แก้ว
辞書に出てくる順(すべて頭子音は ก)
声調記号の順序
頭子音も母音も同じ語どうしは、最後に声調記号で並びます。記号なし → ◌่ → ◌้ → ◌๊ → ◌๋ の順です。ขา(脚)と ข่า(ショウガの一種)と ข้า が続けて並ぶのはこのためです。そして ฤฤๅ は ร の直後、ฦฦๅ は ล の直後に置かれます。ฤดูrɯ́ -duu を探すときは、ร の項の終わりを見てください。
引けなかったときのチェックリスト
- 左に書く母音(เ แ โ ใ ไ)を頭子音と勘違いしていないか。
- 二重子音(กรปล など)の2字目を頭子音と勘違いしていないか。頭子音は1字目。
- 導き字(ห+低子音、อ+ย)の場合、見出しは ห や อ から始まる。ให้ は ห の項。
- そもそも聞き取った音が違っている可能性。声調と母音の長短を変えて引き直す。
9-6タイ語を入力する
タイ語のキーボード配列は เกษมณีkèet-má-nii式が標準です。ローマ字入力ではなく、キー1つにタイ文字1つが直接割り当てられている方式で、日本語のかな入力に近い考え方です。使用頻度の高い字がホームポジションに、頻度の低い字と数字がシフト側に配置されています。もう一つ ปัตตะโชติpàt-tà-choo-tì 式という配列もありますが、実務ではまず見かけません。入力で大事なのは打つ順序=読む順序ではなく、書く順序だという点です。เก็บ を入力するときは เ → ก → ◌็ → บ の順にキーを押します。紙に書くときと同じ順序です。声調記号は子音字の直後に打ちます。
iPhone・Android とも、標準でタイ語キーボードを追加できます。画面上の配列は เกษมณี 式そのままで、キーが小さいぶん長押しで関連する字が出るようになっています。実務では、タイ人の同僚とのチャットでスペースをほとんど使わないことに驚くはずです。文の切れ目にすら入れず、代わり
9-7語の切れ目を見つける
いよいよ実践です。分かち書きのない文字列から語を切り出す。これはタイ語読解の中心的な技術で、次の順序で試すのが最も効率的です。
語の切れ目を見つける4ステップ
- ① 左に書く母音を探す。เ แ โ ใ ไ が見えたら、そこが音節の始まり。これがいちばん強い手がかり。
- ② 声調記号を探す。声調記号は頭子音の上に乗る。記号の下の字が音節の頭。
- ③ 末子音になれる字を思い出す。末子音は8つの音だけ。ある字が末子音として読めるなら、その次の字から新し
い音節が始まる。
- ④ 知っている語から切る。ผมphǒm ที่thîi ไปpai ไม่mâi のような超高頻度語を見つけて、両側を切り離す。
やってみましょう。
ผมไปตลาดกับเพื่อน
私は友人と市場へ行きました。
① ไ と เ が2か所 → ไป と เพื่อน の頭。② ◌่ の下は พ。④ ผม は既知語。残りが ตลาดกับ。
วันนี้อากาศร้อนมาก
今日はとても暑いです。
声調記号 ◌้ が2か所。その下の นร が音節の頭。อ で始まる อากาศ は既知語から切り出す。
看板・掲示を読む
実際に街で見かける表示です。声に出して読んでみてください。
①ทางเข้า / ทางออก
入口/出口
thaang-khâo/thaang-ɔ̀ɔk。ทาง は「道」。
| ทางเข้า | ทางออก |
| ターンカオ | ターンオーク |
②ห้องน้ำชาย / ห้องน้ำหญิง
男子トイレ/女子トイレ
| ห้องน้ำ | ชาย | หญิง |
| ホンナーム | チャーイ | イン |
③ห้ามสูบบุหรี่
禁煙
ห้ามสูบบุหรี่
ハームスープブリー
④ทางออกฉุกเฉิน
非常口
| ทางออก | ฉุกเฉิน |
ターンオークチュックチューン
⑤กรุณาถอดรองเท้า
靴をお脱ぎください
kà-rú-naathɔ̀ɔtrɔɔng-tháao。กรุณา は掲示の「ご〜ください」。
กรุณาถอดรองเท้า
カルナートートローンターオ
⑥สถานีรถไฟ
鉄道駅
| สถานี | รถไฟ |
サターニーロットファイ
会話1 この看板は何と読むのですか
| ケン | コートートクラップニーアーンワーアライクラップ |
すみません、これは何と読むのですか。
| ナム | アーンワーターンオークカ |
「ターンオーク」と読みます。
| ケン | プレーワーアライクラップ |
どういう意味ですか。
| ナム | プレーワーオークカ |
「出る」という意味です。(=出口)
| ケン | コープクンマーククラップ |
どうもありがとうございます。