末子音 ── 8つの音に収束する
第1部 ・ 第6章
どの子音字が語末でどの音になるかを表で引ける。-k -t -p を破裂させずに止められる。-n -ng -m を区別して発音できる。任意の語を見て生音節か死音節かを即座に判定できる。
44字の子音字が語末に立つと、いっせいにたった8つの音に収束します。44が8になる。これがタイ語の音節構造の最大の特徴です。そしてこの章の後半で、第7章の声調規則を支える最重要概念 ──「生音節」と「死音節」── を導入します。
この章のゴール:どの子音字が語末でどの音になるかを表で引ける。-k -t -p を破裂させずに止められる。-n -ng -m を区別して発音できる。任意の語を見て生音節か死音節かを即座に判定できる。
6-1タイ語の音節末に立てる音は8つだけ
タイ語の音節は、原則として次の形をしています。
| 頭子音 | + | 母音 | + | 末子音 | (+ | 声調記号 | ) |
末子音は「あってもなくてもよい」。あるときは必ず8つの音のどれかになる。
頭子音には21種類の音が立てます。ところが末子音に立てるのは、次の8つだけです。
| 末子音 | グループ名 | 性質 | 語例 |
|---|---|---|---|
| -k | แม่กก | 閉じる音 | นกnók (鳥) |
| -t | แม่กด | 閉じる音 | รถrót (車) |
| -p | แม่กบ | 閉じる音 | ครับkhráp (です) |
| -ng | แม่กง | 鼻に抜ける音 | ลงlong (下りる) |
| -n | แม่กน | 鼻に抜ける音 | กินkin (食べる) |
| -m | แม่กม | 鼻に抜ける音 | ลมlom (風) |
| -y | แม่เกย | 半母音 | ขายkhǎai (売る) |
| -w | แม่เกอว | 半母音 | ข้าวkhâao (ごはん) |
グループ名の แม่mɛ̂ɛ は「母」。แม่กกmɛ̂ɛ-kòk は「กก 母」、つまり「-k で終わる音節の一族」という意味です。タイの学校教育で必ず使う呼び方なので、覚えておくと現地の教材が読めます。なお末子音のない音節は
แม่ ก กาmɛ̂ɛ-kɔɔ-kaa と呼ばれます。
日本語で語末(正確には音節末)に立てる子音は、撥音「ん」と促音「っ」だけです。しかも「っ」は次に音が続かないと現れません。タイ語は8つ。しかもそのすべてが意味の区別に使われます。รักrák (愛する)・รัดrát (締める)・รับráp (受け取る)は日本語話者の耳にはどれも「ラッ」と聞こえますが、タイ人にはまったく別の語です。ここが第2の関門です(第1は声調)。
6-2どの子音字がどの末子音になるか ── 完全対応表
44字のうち、末子音として使われるのは35字ほど。それが8つの音に振り分けられます。この表は暗記の対象です。ただし機械的な丸暗記ではなく、「同じ調音位置の字が同じグループに入る」という原理を見てください。
グルー
プ
| -k | แม่กก | ก ข ค ฆ | ปากpàak (口)/สุขsùk (幸福)/โรคrôok (病気)/เมฆmêek (雲) |
グルー
プ
| -t | แม่กด | จ ช ซ ฎ ฏ ฐ ฑ ฒ ด ต | กิจkìt (用事)/ราชrâat (王)/กฎkòt (規則)/ผัดphàt (炒める)/เขตkhèet (区) |
| ถ ท ธ ศ ษ ส | /รสrót (味)/ประเทศprà-thêet (国) | ||
| -p | แม่กบ | บ ป พ ฟ ภ | จบjòp (終わる)/บาปbàap (罪)/ภาพphâap (絵)/ลาภlâap (幸運) |
| - | แม่กง | ง | ทางthaang (道)/ห้องhɔ̂ng (部屋)/แรงrɛɛng (力) |
ng
| -n | แม่กน | น ณ ร ล ฬ ญ | บ้านbâan (家)/คุณkhun (あなた)/อาหารaa-hǎan (食べ物)/กาลkaan (時)/ |
ปลาวาฬplaa-waan (くじら)/บุญbun (功徳)
| -m | แม่กม | ม | ถามthǎam (尋ねる)/ประชุมprà-chum (会議) |
| -y | แม่ | ย | สวยsǔai (美しい)/ไทยthai (タイ)/ด้วยdûai (〜も) |
เกย
| -w | แม่เก | ว | แล้วlɛ́ɛo (もう)/เร็วreo (速い)/ดาวdaao (星) |
อว
原理はこうです。のどの奥で作る音(k kh)はすべて -k になり、舌先で作る音(t th d s ch j)はすべて -t になり、くちびるで作る音(p ph b f)はすべて -p になる。息を出し切らずに口を閉じてしまうので、有気か無気か、摩擦音か破裂音かの区別が消えてしまうのです。
| ก ข ค ฆ | → | -k | | | จ ช ซ ด ต ถ ท ธ ศ ษ ส … | → | -t | | | บ ป พ ฟ ภ | → | -p |
| 💡 | のどの奥 | 舌先 | くちびる |
調音の場所が同じ字は、語末では同じ音に合流する。字が違っても音は1つ。
ร が語末で -n になるのは重要です
ร は頭子音では r ですが、語末では -n になります。ビジネスでよく使う語に多いので要注意。อาหารaa-hǎan(食べ物)、ธนาคารthá-naa-khaan(銀行)、การkaan(〜すること)、ทหารthá-hǎan(兵士)。「アーハール」ではなく「アーハーン」です。同じく ล と ฬ も語末では -n。กาลkaan
(時)、ผลphǒn (結果)。
6-3── 破裂させずに止める
では内破音といいます。英語の cat や book では、最後の子音をきちんと破裂させます(「キャットゥ」「ブックゥ」のように、わずかに息が漏れる)。タイ語ではこれをしません。口を閉じた瞬間に音を終わらせ、息を一切出さないのです。
3つの末子音の作り方
- -k:舌の奥を上あごの奥にぴたりと付けて、そこで止める。息は出さない。日本語の「あっ、かっ!」と言いかけ
て途中で止めた形。
- -t:舌先を上の歯ぐきに付けて、そこで止める。「あっ、たっ!」と言いかけて止める。
- -p:くちびるをぴたりと閉じて、そこで止める。「あっ、ぱっ!」と言いかけて止める。
日本語の促音「っ」を使うのが近道です。「サッカー」の「サッ」で止める。このとき舌の奥は上あごに付いたまま、息は止と。鏡の前で口の形が固まったまま静止していれば正解です。
3つの最小対立で確認しましょう。頭子音・母音・声調はすべて同じ、末子音だけが違います。
× 母音を足す:รักrák を「ラク」と言ってしまう。-k のあとに u が入ると、タイ人には別の音節に聞こえます。× 息を漏らす:ครับkhráp を「クラップ」と最後まで発音する。カタカナの「プ」は母音 u を含むので、くちびるを閉じたまま終わるのが正解です。× 3つを混ぜる:-t のつもりで舌先を付けずに口を閉じてしまう(=-p になる)。ผัดphàt (炒める)が phàp に聞こえると通じません。
6-4── 日本語の「ん」を3つに割る
次の関門です。日本語の「ん」は、実は後に続く音によって発音が変わっています。
| 日本語 | 「ん」の実際の音 | タイ語なら |
|---|---|---|
| あんまり/さんぽ | くちびるを閉じる [m] | -m |
| あんた/さんだる | 舌先を付ける [n] | -n |
| あんか/さんがい | 舌の奥を付ける [ŋ] | -ng |
つまり日本語話者はすでに3つとも発音できています。問題は、日本語ではこれを「ん」という1つの音として意識しているため、意図的に選び分けられないことです。タイ語ではこの3つが独立した音なので、自分で選ぶ必要があります。
💡コム
鋭い
くちびるを閉じて終わる。
-m = 発音し終わったときくちびるが閉じている。-n = 発音し終わったとき舌先が上の歯ぐきに付いている。-ng = 発音し終わったとき口は開いたまま、舌先はどこにも触れていない。
とくに -ng は日本語の語末「ん」(「本」の「ん」)とほぼ同じです。「ング」と書かない、言わない。งานngaan は「ンガーン」であって「ンガーング」ではありません。
💼プラチュム
会議
くちびるを閉じて終わる。ห้องประชุมhɔ̂ng prà-chum (会議室)。
電話で会社名や人名を聞き取るとき、-n と -ng の取り違えは致命的です。สมชายsǒm-chaai (ソムチャーイ)と
สงครามsǒng-khraam では最初の音節が違います。
実務では復唱して確認するのが確実です。「สะกดsà-kòt (綴りは)?」と聞けば、相手はタイ文字を1字ずつ字名で言ってくれます。第5章で学んだ字名がここで効きます。
6-5と ── 半母音の末子音
残る2つは ย(-y)と ว(-w)です。この2つは母音に近い音なので、日本語話者にとっては難しくありません。実際、発音表記でも母音の一部として書かれます。
ข้าวkhâao を「カーオー」と伸ばすと不自然です。-w はくちびるをすぼめて終わる短い動き。日本語の「カオ(顔)」の
「オ」ほど強く出しません。また ว は頭子音では w、語末では -w、そして二重子音の2番目(ความkhwaam )でも働く、はたらき者の字です。
6-6生音節と死音節 ── 第7章への鍵
ここからが本章の核心です。ここまで学んだ末子音の知識を使って、タイ語のすべての音節を2種類に分類します。この分類なしに声調規則は成り立ちません。
生音節()と死音節()
- 生音節คำเป็นkham-pen(=「生きている語」)
① 長母音で終わる(末子音なし) または ② 末子音が -ng -n -m -y -w(鼻に抜ける音・半母音)
- 死音節คำตายkham-taai(=「死んでいる語」)
① 短母音で終わる(末子音なし) または ② 末子音が -k -t -p(閉じる音)名前の由来は直感的です。生音節は、伸ばそうと思えばいくらでも伸ばせます。มาmaa も กินkin も ลมlom も、最後の音を「マーーー」「キンーーー」と引き延ばせます。声が生きているのです。一方死音節は、途中でぷつりと切れます。นกnók も ผัดphàt も จะjà も、伸ばそうとした瞬間に息が止まります。声が死んでいる ── だから死音節です。
| 生音節 คำเป็น | = | 長母音のみ | / | -ng -n -m -y -w | | | 死音節 คำตาย | = | 短母音のみ | / | -k -t -p |
この2分類が、第7章の声調規則の入口になる。
| 語 | 末尾の状況 | 判定 |
|---|---|---|
| มาmaa (来る) | 長母音 aa・末子音なし | 生 |
| จะjà (〜だろう) | 短母音 a・末子音なし | 死 |
| กินkin (食べる) | 末子音 -n | 生 |
| ลมlom (風) | 末子音 -m | 生 |
| ยาวyaao (長い) | 末子音 -w | 生 |
| นกnók (鳥) | 末子音 -k | 死 |
| มากmâak (とても) | 末子音 -k(長母音でも) | 死 |
| ครับkhráp (です) | 末子音 -p | 死 |
| ทำtham (する) | ำ は -m で終わる | 生 |
| ไปpai (行く) | ไ- は -i(=-y)で終わる | 生 |
| เราrao (私たち) | เ-า は -o(=-w)で終わる | 生 |
| เกาะkɔ̀(島) | 短母音 ɔ・末子音なし | 死 |
① 母音の長短が効くのは「末子音がないとき」だけ。มากmâak は長母音ですが -k で終わるので死音節です。末子音 -k -t -p があれば、母音の長短にかかわらず死音節。② ำ ใ- ไ- เ-า は生音節。短く聞こえますが、それぞれ -m -y -y -w という末子音を内蔵しているからです。ทำtham ・ในnai ・
ไม่mâi ・เราrao はすべて生音節。
💡③ 判定に子音の類は関係ない。生死は母音と末子音だけで決まります。頭子音が中子音でも高子音でも低子音でも、判定は変
わりません。
タイ語の声調は、記号がなくても決まります。そのとき使う情報が「子音の類」と「生音節か死音節か」の2つです。たとえば低子音の語は、生音節なら平声(มาmaa )、死音節なら短母音で高声(นกnók )、死音節で長母音なら下声(
มากmâak )。3つに枝分かれします。
つまり生死の判定を間違えると、声調が丸ごと違ってしまうのです。本章の内容は第7章の必須の前提です。判定が瞬時にできるまで、章末の練習問題を繰り返してください。
会話1 末子音を確かめながら
| ケン | ポムチョープアーハーンタイマーククラップ |
私はタイ料理がとても好きです。
| ナム | チョープアライカ |
何がお好きですか。
| ケン | パッタイクラップ |
パッタイです。
| ナム | ペットマイカ |
辛いですか。
| ケン | ペットニットノーイクラップテーアロイマーククラップ |
少し辛いですが、とてもおいしいです。
| ナム | プルンニーパイキンドゥアイカンマイカ |
明日いっしょに食べに行きませんか。
| ケン | ディークラップ |
いいですね。
この会話には -p -n -k -t -y -m と、8つのうち6つの末子音が出ています。ชอบchɔ̂ɔp はくちびるを閉じて、อาหารaa-hǎan は舌先を付けて、มากmâak は舌の奥で止めて。ひとつずつ確かめながら音読してください。