子音字(2)低子音24字
第1部 ・ 第5章
低子音24字を字名・音価・末子音の音とともに読める。低子音が「対字」と「単独低子音」に分かれること、その区別が声調規則で決定的に効くことを説明できる。
前章で中子音9字と高子音11字、あわせて20字を見ました。残りは24字。これが低子音です。数は多いのですが、半分以上は高子音とペアになっていて、音そのものはすでに知っているものばかりです。ここを抜ければ44字がすべて出そろいます。
この章のゴール:低子音24字を字名・音価・末子音の音とともに読める。低子音が「対字」と「単独低子音」に分かれること、その区別が声調規則で決定的に効くことを説明できる。
5-1低子音24字の全体像
低子音は อักษรต่ำàk-sɔ̌ɔn-tàm といいます。ต่ำtàm は「低い」。44字のうち過半数の24字がこの類に属します。まず全体を眺めてください。各枠は上から 字形/音価と末子音/字名 の順です。字名はその字で始まる代表的な単語をあてたもので、タイの小学校では「コー・クワーイ(水牛のコー)」のように必ずセットで覚えます。同じ音の字が何度も出てきますが、それでいいのです。
คฅฆงช
| kh / -k | kh / 廃字 | kh / -k | ng / -ng | ch / -t |
| ควาย khwaai | คน khon | ระฆัง rá-khang | งู nguu | ช้าง cháang |
| 水牛 | 人(現在不使用) | 鐘 | 蛇 | 象 |
ซฌญฑฒ
| s / -t | ch / 稀 | y / -n | th / -t | th / -t |
| โซ่ sôo | เฌอ chəə | หญิง yǐng | มณโฑ mon-thoo | ผู้เฒ่า phûu-thâo |
| 鎖 | 木 | 女性 | モントー姫 | 老人 |
ณทธนพ
| n / -n | th / -t | th / -t | n / -n | ph / -p |
| เณร neen | ทหาร thá-hǎan | ธง thong | หนู nǔu | พาน phaan |
| 小僧 | 兵士 | 旗 | ねずみ | 供物台 |
ฟภมยร
| f / -p | ph / -p | m / -m | y / -y | r / -n |
| ฟัน fan | สำเภา sǎm-phao | ม้า máa | ยักษ์ yák | เรือ rɯa |
| 歯 | ジャンク船 | 馬 | 鬼神 | 船 |
ลวฬฮ
| l / -n | w / -w | l / -n | h / なし |
| ลิง ling | แหวน wɛ̌ɛn | จุฬา jù-laa | นกฮูก nók-hûuk |
| 猿 | 指輪 | 凧 | ふくろう |
24字ありますが、区別すべき頭子音の音は14種類(kh ng ch s y th n ph f m r l w h のうち重複を除く)しかありません。しかも ฅ ฌ ฑ ฒ ฬ の5字はごく限られた語にしか現れません。実質的に覚えるべきは19字ほどです。
低子音の「低」は、声の高さのことではありません。同じ条件でも中子音・高子音とは違う声調になる、というグループ分けのラベルにすぎません。たとえば記号のない生音節では、中子音と低子音はどちらも平声で、高子音だけが上声になります。「低子音=低い声」ではないことを最初に押さえてください。詳しい規則は第7章で完全に整理します。
5-2対字(อักษรคู่)── 高子音と対をなす14字
低子音24字は、はっきり2つのグループに分かれます。ひとつが対字อักษรคู่àk-sɔ̌ɔn-khûu、もうひとつが次節の単独低子音です。คู่khûu は「ペア」。同じ音を表す高子音が存在する低子音が対字です。
| 音 | 高子音 | 低子音(対字) | 例 |
|---|---|---|---|
| kh | ข ฃ | ค ฅ ฆ | ขายkhǎai (売る)/คนkhon (人) |
| ch | ฉ | ช ฌ | ฉันchǎn (私)/ชอบchɔ̂ɔp (好き) |
| s | ศ ษ ส | ซ | สวยsǔai (美しい)/ซื้อsɯ́ ɯ (買う) |
| th | ฐ ถ | ฑ ฒ ท ธ | ถูกthùuk (安い)/ทำtham (する) |
| ph | ผ | พ ภ | ผมphǒm (私)/พูดphûut (話す) |
| f | ฝ | ฟ | ฝนfǒn (雨)/ไฟfai (火) |
| h | ห | ฮ | ห้องhɔ̂ng (部屋)/ฮ่องกงhɔ̂ng-kong (香港) |
対字は ค ฅ ฆ ช ฌ ซ ฑ ฒ ท ธ พ ภ ฟ ฮ の14字。数えてみてください、ちょうど14です。なぜ「対」であることが大事なのか。答えは声調です。対字は、高子音のパートナーと組めば5声調すべてを表せるからです。低子音だけでは出せない声調を、同じ音の高子音が肩代わりしてくれます。
| ข | + | ค | ⇒ | kh の5声調が全部出せる |
| 高子音 kh | 低子音 kh |
同じ kh でも、どちらの字を使うかで出せる声調が変わる。だから同音の字が2種類必要になる。
最大の理由です。
日本語で「あつい」を「暑い・熱い・厚い」と書き分けるように、タイ語も同じ音を複数の字で書き分けます。ただし日本語の書き分けが意味によるのに対し、タイ語の書き分けは声調に直結します。字を選び間違えると、意味以前に音そのものが変わってしまうのです。
5-3単独低子音(อักษรเดี่ยว)── 対を持たない10字
もうひとつのグループが単独低子音อักษรเดี่ยวàk-sɔ̌ɔn-dìao です。เดี่ยวdìao は「単独の」。同じ音の高子音が存在しない10字がこれです。
งญณนม
| ng | y | n | n | m |
| งู nguu | หญิง yǐng | เณร neen | หนู nǔu | ม้า máa |
ยรลวฬ
| y | r | l | w | l |
| ยักษ์ yák | เรือ rɯa | ลิง ling | แหวน wɛ̌ɛn | จุฬา jù-laa |
งญณนมยรลวฬ の10字。音でいうと ng y n m r l w の7種、いずれも鼻音・流音・半母音です。息を強く出さない、やわらかい音ばかりが集まっているのが特徴です。
この区別が第7章で効いてきます
- 対字(14字)は、同音の高子音とペアで働く。5声調は「高子音の字」と「低子音の字」を使い分けて表す。
- 単独低子音(10字)は相棒がいない。そのままでは上声と低声が作れない。
- そこで登場するのが ห นำ(ホー・ナム)。単独低子音の前に音のない ห を置き、その音節を高子音扱いにする裏技
です。หมาmǎa(犬)、หนูnǔu(ねずみ)、ไหมmǎi(〜ですか)はすべてこの仕組みでできています。
- だから「この低子音は対字か、単独か」を判別できることが、そのまま正しい声調で読めることにつながります。
単独低子音 ง ญ ณ น ม ย ร ล ว ฬ は、これから何百回も参照します。タイでは「งูใหญ่นอนอยู่ ณ ริมวัด(大蛇が寺のほとりに寝ている)」という文で覚えます。日本語話者は「ン・ヤ・ナ・ナ・マ・ヤ・ラ・ラ・ワ・ラ」と音で唱えるほうが早いでしょう。ていません。
5-4なぜ同じ音の字がいくつもあるのか
ここまでで、th の音を表す字が ท ธ ฑ ฒ ถ ฐ と6つあることに気づいたはずです。s は ซ ศ ษ ส の4つ、kh は ข ฃ ค ฅ ฆ の5つ。なぜこんなに要るのでしょうか。理由は2つあります。
理由① 声調を書き分けるため
前節で見たとおりです。高子音の字か低子音の字かによって、同じ綴り方でも別の声調になります。子音字は「音」と同時に「声調の情報」を運んでいるのです。これは字が複数ある積極的な理由で、現代タイ語でも生きています。
理由② サンスクリット語・パーリ語の綴りを保存するため
タイ語の抽象語・仏教語・公的語彙の多くは、インドのサンスクリット語とパーリ語から入りました。原語には、タイ語かく区別していました。果として、音は同じなのに字が違う、という状況が生まれたのです。
| 字 | 由来(原語の音) | タイ語での音 | 語例 |
|---|---|---|---|
| ท | t の有声音 | th | ทำtham (する)── 純タイ語 |
| ธ | t の有声有気音 | th | ธงthong (旗)/ธนาคารthá-naa-khaan (銀行) |
| ฑ | そり舌の d | th | มณฑลmon-thon (地方・州) |
| ฒ | そり舌の dh | th | วัฒนธรรมwát-thá-ná-tham (文化) |
| ☕ฐ | そり舌の th | th | ฐานthǎan (土台) |
| ถ | t の有気音 | th | ถนนthà-nǒn (道路) |
日本語も、かつて「てふてふ」と書いて「チョウチョウ」と読みました。音は変わったのに綴りが古いまま残っていたのです。タイ語の同音異字はこれの大規模版で、しかも現在も廃止されていません。ただし学習者に朗報があります。ฑ ฒ ฌ ฬ ฐ ษ ฃ ฅ の8字は、日常語ではほとんど出てきません。見かけたら「サンスクリット由来の格式ばった語だな」と思えば十分です。とくに ฃ(高子音)と ฅ(低子音)は1930年代以降まったく使われなくなった廃字で、タイプライターにも入っていません。字数を44と数えるときにだけ登場する幽霊のような字です。
聞いた語を辞書で引きたいのに綴りがわからない、というのは避けられません。th なら ท を最初に試してください。日常語のほとんどは ทです。同様に s なら ส、kh なら ค か ข、ph なら พ か ผ。声調がわかっていれば候補は半分に絞れます(上声・低声なら高子音、平声・高声なら低子音の可能性が高い)。これも第7章の規則を知っていればこその技です。
5-5字形の見分け方
タイ文字は「頭(หัว)」と呼ばれる小さな輪から書き始めます。輪の位置・数、そして上に突き出るか/下に垂れるかを見れば、似た字はほぼ確実に区別できます。この3点だけ意識してください。
| 紛らわしい組 | 見分けるポイント |
|---|---|
| ค / ด | どちらも頭は左下。ค は右の線がそのまま上へ抜けて開いたまま終わる。ด は右の線が上で内側に巻き込んで閉じ |
る。คนkhon (人)と ดีdii (よい)で覚える。
| ท / ห | どちらも頭は左下で、上下に突き出る線はない。ท は全体が横に平たく広がる。ห は左寄りに縦線が立ち、右側が独 |
立した山になる。ทำtham と ห้องhɔ̂ng 。
| ม / ฆ | ม は頭+山ひとつだけの単純な形。ฆ は右側にもうひと折れある。ฆ は日常語にほぼ出ないので、迷ったら ม。 |
| พ / ฬ | 輪郭は似ているが、ฬ だけ右の線が上に長く突き出る。突き出ていれば ฬ。 |
| ณ / ญ | ญ は下に尾を垂らす。ณ は基準線から下に出ない。これだけで確実。 |
| ช / ซ | ซ は ช の右上に小さなかぎ(ホック)が付いた形。かぎがあれば s、なければ ch。 |
| ผ / ฝ / พ | 上に突き出る線があるのが ฝ(f・高子音)と ฟ(f・低子音)。ないのが ผ(ph・高子音)と พ(ph・低子音)。突き |
| / ฟ | 出ていれば f と覚える。 |
| ธ / ร | ร は縦線1本に上の曲がりだけの単純な形。ธ は輪と横線を持ち、上部が閉じている。 |
上に突き出る:ป ฝ ฟ ษ ฬ ฒ(ほかに母音記号や ฤ ฦ)。下に垂れる:ฎ ฏ ญ ฐ。この2つのリストを頭に入れておくと、細かい形を思い出せなくても候補を一気に絞れます。タイ文字は上下に母音記号や声調記号が付くため、突き出る線と垂れる尾は視覚的にとても目立ちます。読解のときの強力な手がかりです。
会話1 低子音だけでできた会話
| ケン | クンタムンガーンティーナイクラップ |
どちらでお勤めですか。
| ナム | タムンガーンティータナーカーン | カ |
銀行で働いています。
| ケン | ンガーンヤークマイクラップ |
お仕事は大変ですか。
| ナム | マイヤークカテーヌアイカ |
難しくはありませんが、疲れます。
| ケン | プルンニーワーングマイクラップ |
明日はお暇ですか。
| ナム | ワーングカ |
空いています。
この会話に出てくる語の頭子音を見てください。คุณkhun の ค、ทำtham の ท、งานngaan の ง、ธนาคารthá-naa-khaan のธ、ยากyâak の ย、ว่างwâang の ว ── ほとんどが低子音です。実際、タイ語の語彙で最も出現頻度が高いのは低子音なのです。
5-644字がそろった ── 全体の確認
第4章の20字と本章の24字で、タイ文字の子音字44字がすべて出そろいました。ここで一度、全体像を確定させておきましょう。この表は今後ずっと参照します。
| 類 | 字数 | 子音字 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中子音อักษรกลางàk-sɔ̌ɔn-klaang | 9 | ก จ ฎ ฏ ด ต บ ป อ | ||||||||
| 高子音อักษรสูงàk-sɔ̌ɔn-sǔung | 11 | ข ฃ ฉ ฐ ถ ผ ฝ ศ ษ ส ห | ||||||||
| 低子音・対字อักษรคู่àk-sɔ̌ɔn-khûu | 14 | ค ฅ ฆ ช ซ ฌ ฑ ฒ ท ธ พ ฟ ภ ฮ | ||||||||
| 低子音・単独อักษรเดี่ยวàk-sɔ̌ɔn-dìao | 10 | ง ญ ณ น ม ย ร ล ว ฬ | ||||||||
| 合計 | 44字 | |||||||||
| 44字 | → | 中子音 9 | / | 高子音 11 | / | 低子音 24 | → | 対字 14 | + | 単独 10 |
声調規則はこの3類(さらに低子音は2群)で分かれる。字を見たら必ず類を思い出す習慣をつける。
44字がそろうと、タイ人の名刺や会社名が「音として」読めるようになります。บริษัทbɔɔ-rí-sàt(会社)、
จำกัดjam-kàt(有限)、ผู้จัดการphûu-jàt-kaan(マネージャー)。
タイのビジネスでは、相手の名前をタイ語の音で正しく呼べるかどうかが第一印象を大きく左右します。英語表記のローマ字は声調を落としてしまうので、タイ文字から直接読むのがいちばん正確です。第7章まで進めば、初見の名前でも声調まで当てられるようになります。