子音字(1)中子音9字と高子音11字
第1部 ・ 第4章
子音字が3類に分かれる理由を説明でき、中子音9字と高子音11字を字名・音価・末子音の音とともに読める。
いよいよ文字に入ります。子音字は全部で44。数を聞くとひるみますが、この44字には明確な構造があります。まず「なぜ44もあるのか」を理解し、それから中子音9字と高子音11字、あわせて20字を覚えます。残りの24字は次章です。
この章のゴール:子音字が3類に分かれる理由を説明でき、中子音9字と高子音11字を字名・音価・末子音の音とともに読める。
4-1なぜ子音字が44もあるのか
タイ語で実際に区別される子音の音は21種類です。それなのに文字は44。単純計算で2倍以上あることになります。しかも
| 音 | 字数 | その字 |
|---|---|---|
| th | 6 | ฐ ฑ ฒ ถ ท ธ |
| kh | 5 | ข ฃ ค ฅ ฆ |
| s | 4 | ซ ศ ษ ส |
| ch / ph | 各3 | ฉ ช ฌ / ผ พ ภ |
| d / t / n / f / y / l / h | 各2 | ฎ ด / ฏ ต / ณ น / ฝ ฟ / ญ ย / ล ฬ / ห ฮ |
無駄に見えますが、そうではありません。理由は2つあります。
理由① 昔は音が違った
13世紀にタイ文字が作られたころ、これらの字はそれぞれ別の音を表していました。有声音(濁った音)と無声音、有気音と無気音が区別されていたのです。その後、タイ語の音の体系が変わり、複数の音が1つに合流しました。ところが、音が合流したとき代わりに声調が分かれました。たとえば昔の無声音は高い調子に、昔の有声音は低い調子に。こうして「子音の違い」が「声調の違い」に姿を変えて残ったのです。
| 昔 | → | 音が合流 | → | 今 |
| 子音の種類が違った | 同じ子音音になる | 声調が分かれて残った |
子音字の「種類」は、いま声調を決める情報として生きている。だから字を減らすことができない。
つまり、子音字は「音」と「声調」の2つの情報を同時に運んでいます。同じ kh でも ข と ค では、続く音節の声調が変わります。文字を減らせば声調が書けなくなる。これが44字ある本当の理由です。
理由② サンスクリット・パーリ語を書き写すため
もう1つの理由は、仏教とともに入ってきたインドの言語を、もとの綴りのまま書き写す必要があったことです。ฐ ฑ ฒ ณ
ศ ษ ฬ といった字は、ほとんどがサンスクリット・パーリ語由来の語にしか現れません。
日本語の漢字にたとえるとわかりやすいでしょう。「会う」「合う」「遭う」は同じ音ですが、書き分けます。タイ語も、由来の違う語を書き分けているのです。
44字のうち、日常のタイ語で頻繁に出てくるのは30字ほどです。ฃ と ฅ は完全に使われなくなった廃字。ฎ ฏ ฐ ฑ ฒ ฌ ฬ ษは、専門語や固有名詞でたまに見かける程度です。まずは頻度の高い字から確実に。珍しい字は「見たら思い出せる」レベルで十分です。
4-2三分類 ── 中子音・高子音・低子音
44字は3つのグループに分けられます。この分類が、タイ語の声調規則の土台です。
| 分類 | タイ語名 | 字数 | 本書での扱い |
|---|---|---|---|
| 中子音 | อักษรกลาง àk-sɔ̌ɔn klaang | 9 | 第4章(本章) |
| 高子音 | อักษรสูง àk-sɔ̌ɔn sǔung | 11 | 第4章(本章) |
| 低子音 | อักษรต่ำ àk-sɔ̌ɔn tàm | 24 | 第5章 |
名前が誤解を招きますが、高子音の字が高い声で読まれるわけではありません。むしろ高子音は上声(いったん沈んで上がる)や低声になることが多いのです。「高・中・低」は、その字がどの声調のグループを作るかを示すラベルにすぎません。「A類・B類・C類」と呼んでも構わないくらいの、単なる記号だと思ってください。
この3類がなぜ大事なのか。声調が次の4つの要素から決まるからです。
| 子音字の類 | + | 母音の長短 | + | 末子音 | + | 声調記号 | ⇒ | 声調 |
| 中・高・低 | 短・長 | 種類 | なし・4種 |
4要素がそろえば声調は機械的に決まる。その第1要素が子音字の類。計算の全体像は第7章。
だから子音字を覚えるときは、字の形・音・そして所属する類の3つをセットにします。本書の一覧では、中子音を青、高子音を赤、低子音を緑の色分けで示します。この色をそのまま記憶してください。
4-3中子音9字
中子音は9字。タイ語固有の基本的な音を担う字が集まっています。この9字は最優先で覚えるべきグループです。
กจฎฏด
| k / -k | j / -t | d / -t | t / -t | d / -t |
| ก ไก่ | จ จาน | ฎ ชฎา | ฏ ปฏัก | ด เด็ก |
| kɔɔ kài | jɔɔ jaan | dɔɔ chá-daa | tɔɔ pà-tàk | dɔɔ dèk |
| 鶏 | 皿 | 冠 | 突き棒 | 子供 |
ตบปอ
| t / -t | b / -p | p / -p | (無音)/ 末なし |
| ต เต่า | บ ใบไม้ | ป ปลา | อ อ่าง |
| tɔɔ tào | bɔɔ bai-mái | pɔɔ plaa | ɔɔ àang |
| 亀 | 葉 | 魚 | たらい |
字名は「その字の音+ɔɔ」+「その字で始まる代表語」という形になっています。ก なら kɔɔ kài。日本語の「い・ろ・は」やアルファベットの「エー・ビー・シー」にあたるもので、タイ人は必ずこの名前で字を呼びます。字名まで覚えて初めて、タイ人と文字の話ができます。
中子音の t(ต)と p(ป)は、日本語の「タ」「パ」より息を出さない音です。手のひらを口の前に当てて発音し、息が当たらなければ正解。息が当たるなら、それは高子音の th(ถ)や ph(ผ)になってしまいます。とくに p は日本語話者にとって難物です。ไปpai(行く)の頭を息を出さずに、唇を閉じてぱっと開く。b と p の中間くらいの感覚で出すとうまくいきます。
中子音を使った語を見ておきましょう。
ฎ と ฏ はサンスクリット・パーリ語由来の語にしか現れず、日常語ではほとんど見ません。ただし完全に消えたわけでは
なく、次のような重要語に残っています。
4-4高子音11字
高子音は11字。息を強く出す音(有気音)と摩擦音が中心です。
ขฃฉฐถ
| kh / -k | kh / 廃字 | ch / 末なし | th / -t | th / -t |
| ข ไข่ | ฃ ขวด | ฉ ฉิ่ง | ฐ ฐาน | ถ ถุง |
| khɔ̌ɔ khài | khɔ̌ɔ khùat | chɔ̌ɔ chìng | thɔ̌ɔ thǎan | thɔ̌ɔ thǔng |
| 卵 | 瓶 | 小シンバル | 台座 | 袋 |
ผฝศษส
| ph / 末なし | f / 末なし | s / -t | s / -t | s / -t |
| ผ ผึ้ง | ฝ ฝา | ศ ศาลา | ษ ฤๅษี | ส เสือ |
| phɔ̌ɔ phɯ̂ ng | fɔ̌ɔ fǎa | sɔ̌ɔ sǎa-laa | sɔ̌ɔ rɯɯ-sǐi | sɔ̌ɔ sɯ̌a |
| 蜂 | 蓋 | あずまや | 仙人 | 虎 |
ห
h / 末なし
ห หีบ
hɔ̌ɔ hìip
箱
い記憶法です。
末子音になったときの音
どれかに丸め込まれます。中子音・高子音の対応は次のとおりです。
| 末子音の音 | 中子音の字 | 高子音の字 | 例 | |
|---|---|---|---|---|
| -k | ก | ข | มากmâak とても/เลขlêek 数 | |
| -t | จ ฎ ฏ ด ต | ฐ ถ ศ ษ ส | เกิดkə̀ət 生まれる/รถrót 車/พิเศษphí-sèet 特別 | |
| 💡 | -p | บ ป | (なし) | ชอบchɔ̂ɔp 好き/บาปbàap 罪 |
| 末尾に立たない | อ | ฉ ผ ฝ ห | — |
รถrót は「ロットゥ」ではなく、舌を歯ぐきに付けたところで音を止める。ชอบchɔ̂ɔp は唇を閉じて終わ
り。この「出し切らない」感覚が、タイ語らしい響きの正体です。詳しくは第6章で扱います。
4-5字形の見分け方
タイ文字でつまずくもう1つの原因が、形の似た字です。慣れないうちは同じに見えます。見分けのポイントを整理します。
ก / ถ / ภ
いずれも「左の縦線+上の横線+右の下がり」という骨格が同じです。
- ก ── 輪(หัว)がない。左の縦線は短く、上でそのまま右へ折れる。
- ถ ── 左下に輪がある。輪の有無だけが ภ との違い。
- ภ ── 輪がなく、左の縦線が上へ突き出す。
ก は中子音、ถ は高子音、ภ は低子音(第5章)。3つとも別の類なので、見間違えると声調まで狂います。
ด / ค / ต
3字とも左下に輪があり、右へ回って戻る形です。
- ด ── 右上が丸く閉じ、線が内側に巻き込む。
- ค ── 右上が角ばり、右の線がまっすぐ下りる。
- ต ── ค に似るが、右の線の先が上へ跳ね上がる。
ด と ต は中子音、ค は低子音です。
บ / ป / ษ
- บ ── 左下の輪から上がり、右で下りてそこで止まる。いちばん単純。
- ป ── บ の右の線が上へ長く伸びる。
- ษ ── ป に似るが、伸びた線の上端が折れて角ができる。
ผ / ฝ
ฝ は ผ の右上に小さなヒゲが1本付いた形です。この1本があるかないかで ph と f が変わります。低子音の พ/ฟ も同じ関
係で、ヒゲが付けば f と覚えると4字まとめて片づきます。
ฎ / ฏ
どちらも下に長い尾を垂らす字です。上半分を見れば区別できます。ฎ の上は ด、ฏ の上は ต。音も ด=d、ต=t と同じなので、形と音が一致していて覚えやすい組です。
使われなくなった2字 ── ฃ と ฅ
ฃ(khɔ̌ɔ khùat)と ฅ(khɔɔ khon)は、現代タイ語でまったく使われません。それぞれ ข と ค に置き換えられました。
理由の一説はタイプライターです。20世紀初頭にタイ語タイプライターが作られたとき、鍵盤の数が足りず、使用頻度の低いこの2字が外されました。以後、印刷物から姿を消していったのです。前だけ知っておけば十分で、書けなくても困りません。なお ฃ は高子音、ฅ は低子音です。
4-6書き順 ── หัว から書き始める
タイ文字の多くには、小さな輪が付いています。これを หัวhǔa(頭)と呼びます。書き順の原則は1つだけです。
タイ文字を書く4つの原則
- ① หัว から書き始める。輪を最初に書き、そこから線を伸ばす。
- ② 原則として一筆書き。ペンを離さずに書ける字がほとんど。
- ③ 左から右へ。左に置く母音字(เ แ โ ใ ไ)は、子音字より先に書く。
- ④ 母音記号・声調記号は最後。子音字を書き終えてから、上下に付ける。
①がとくに重要です。หัว から書き始めると、線の流れが自然に決まり、字形が崩れません。逆に หัว を後から書き足すと、輪の大きさや位置が安定せず、読みにくい字になります。
| ① หัว | → | ② 縦線 | → | ③ 横・右へ | → | ด |
| 輪を書く | 上へ | 一筆で |
ด の場合。左下の輪から始め、上へ、右へ回して閉じる。ペンは離さない。
หัว を持たない字もあります。ก・ธ・ภ の3字です。この3字は左上または左下から線を引き始めます。また、หัว は字を見分ける手がかりにもなります。前の節で見た ถ と ภ の違いは、หัว があるかないか、それだけです。読むときも書くときも、まず輪を探す習慣をつけてください。
本書やタイの印刷物で使われる書体には หัว がはっきり付いていますが、タイ人の日常の手書きでは หัว が省略されがちです。とくに速く書くと、輪がただの点や小さな折れになります。ホワイトボードのメモや手書きの伝票を読む機会は、仕事では必ず来ます。最初は面食らいますが、骨格(線の流れ)で読む訓練を積めば読めるようになります。まずは印刷体を正確に覚え、それを基準に手書きを推測する。この順番が確実です。
4-7อ ── 子音の形をした母音の台
中子音の最後の1字 อ は、他の8字とは性格が違います。それ自身は音を持ちません。しかしタイ語の綴りでは、なくてはならない働きをします。
① 母音で始まる音節の「台」になる
タイ語の音節は、必ず子音字から書き始めます。母音記号は単独では立てないからです。では母音で始まる語はどう書くのか。อ を置いて、そこに母音記号を付けます。
ここで大事なのは、อ が中子音として声調計算に参加することです。音は出さないのに、声調は決める。「無音の子音字」という感覚をつかんでください。
② 母音字の一部になる
อ は、いくつかの母音の綴りにも組み込まれています。この場合の อ は子音ではなく、母音字の部品です。
| 母音字 | 発音 | 例 | 意味 |
|---|---|---|---|
| -อ | ɔɔ | พ่อphɔ̂ɔ | 父 |
| เ-อ | əə | เธอthəə | 君 |
| เ-ือ | ɯa | เสื้อsɯ̂ a | 服 |
③ 宙に浮く母音記号を支える
母音字 -ื(ɯɯ)は子音字の上に載る記号です。末子音がない語では、載る相手はいても後ろに置く字がないため、綴りが安定しません。そこで อ を後ろに立てて支えにします。
⚠ อ が出てきたら、まず役割を見分ける
語の中に อ を見つけたら、次の順に考えます。語の先頭にある → ①の「台」。母音だけを読む。子音字の後ろにあり、上に -ื がある → ③の支え。読まない。慣れれば一瞬で見分けられます。ห にも「h の子音」と「他の字の声調を変える働き」の2つの顔がありますが、そちらは第5章と第8章で扱います。