母音 ── 長短が意味を分ける
第1部 ・ 第3章
9対の基本母音を口の形とともに区別でき、日本語にない ɯ ɛ ɔ ə を作れる。母音字が子音字のどこに付くかがわかる。
声調の次の関門が母音です。タイ語の母音は9つの音質が長短で対になり、さらに二重母音と複合母音が加わります。日本語にない音が4つあり、そして日本語では「気分」でしかない長短が、タイ語では語を分けます。この章も声に出しながら進めてください。
この章のゴール:9対の基本母音を口の形とともに区別でき、日本語にない ɯ ɛ ɔ ə を作れる。母音字が子音字のどこに付くかがわかる。
3-1タイ語の母音は「対」でできている
日本語の母音は「ア・イ・ウ・エ・オ」の5つ。タイ語の基本母音は9種類あり、そのそれぞれに短い版と長い版があります。つまり9×2=18の基本母音があることになります。日本語にも「おばさん」と「おばあさん」のような長短の対立はあります。しかしそれは限られた語の話で、多くの場合は「ちょっと伸ばした」程度に受け取られます。タイ語では9対すべてで、長短が語を分けます。長短は「伸ばし方の好み」ではなく、子音や声調と同じ、語の設計図の一部です。
| 短母音 | 母音字 | 長母音 | 母音字 | 口の作り方 |
|---|---|---|---|---|
| a | -ะ | aa | -า | 日本語の「ア」とほぼ同じ。口を大きく開く |
| i | -ิ | ii | -ี | 日本語の「イ」より唇を強く横に引く |
| ɯ | -ึ | ɯɯ | -ื | 唇を横に引いたまま「ウ」。日本語にない |
| u | -ุ | uu | -ู | 唇をしっかり丸めて突き出す「ウ」 |
| e | เ-ะ | ee | เ- | 日本語の「エ」より口を狭く、鋭く |
| ɛ | แ-ะ | ɛɛ | แ- | 口を大きく開いた「エ」。日本語にない |
| o | โ-ะ | oo | โ- | 唇を丸めて突き出す「オ」 |
| ɔ | เ-าะ | ɔɔ | -อ | 口を大きく開いた「オ」。日本語にない |
| ə | เ-อะ | əə | เ-อ | 力を抜いたあいまいな音。日本語にない |
表の「母音字」の欄にある - は、子音字が入る場所を示しています。タイ語の母音字は単独では書けず、必ず子音字とセットで使われます。
日本語の「ウ」はその中間くらいで、どちらとも取れる曖昧な位置にあります。中心です。
3-2日本語話者に難しい4つの母音
どうずらすか」という手順で覚えてください。
ɯ ── 唇を引いたまま「ウ」
作り方はこうです。まず「イ」の口の形を作ります(唇を横に引く)。その形を絶対に崩さずに、舌だけを後ろに引いてに寄ってしまいます。
ɛ ── 口を大きく開いた「エ」
日本語の「エ」よりあごを下げ、口を大きく開けて出します。英語の cat の母音に近い音です。「エ」と「ア」の中間、と説明されることもありますが、感覚としては「エ」のまま、口だけを縦に広げるのが正解です。本書のカタカナ表記では「エァ」と書きますが、二重母音ではありません。1つの音です。
ɔ ── 口を大きく開いた「オ」
せん。対になる o(โ-)のほうは、唇をしっかり丸めて前に突き出します。日本語の「オ」はこちらに近い音です。
ə ── 力を抜いたあいまいな音
きを抜いた音です。ます。
ばらばらに練習するより、紛らわしい相手とセットで練習するほうが定着します。・ɯɯ と uu:唇を引く/丸める。มือmɯɯ (手)と หมูmǔu (豚)。・ɛɛ と ee:口を広く/狭く。แพงphɛɛng (高い)と เพลงphleeng (歌)。・ɔɔ と oo:唇を開く/丸める。ขอkhɔ̌ɔ (求める)と โตtoo (大きい)。・əə と ɔɔ:唇を丸めない/丸める。เดินdəən (歩く)と ดอกdɔ̀ɔk (花)。唇の形だけに集中し、鏡で確認しながら10回ずつ。舌の位置は自然についてきます。
3-3長短が意味を分ける
長母音は短母音のおよそ2倍の長さで発音します。「2倍」というのは目安ではなく、実際にそのくらいはっきり差をつけないと通じません。日本人の発音は、タイ人の耳には長母音が短すぎると聞こえがちです。次の組は、声調も子音もまったく同じで、母音の長さだけが違う語です。
| 短 | 発音 | 意味 | 長 | 発音 | 意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| เขา | khǎo | 彼・彼女 | ขาว | khǎao | 白い |
| เข้า | khâo | 入る | ข้าว | khâao | ごはん |
| เก้า | kâo | 9 | ก้าว | kâao | 歩む・一歩 |
| เสา | sǎo | 柱 | สาว | sǎao | 若い女性 |
| ทัน | than | 間に合う | ทาน | thaan | 食べる(丁寧) |
| ปัก | pàk | 刺す | ปาก | pàak | 口 |
次の2語を見てください。
รักrák(愛する)と รากrâak(根)。วัดwát(寺)と วาดwâat(描く)。
綴りの違いは母音の長短だけなのに、声調まで変わっています(高声 → 下声)。これは偶然ではありません。タイ語では、末つまり母音の長短を間違えると、声調も連鎖して間違える。長短は発音の細部ではなく、語の骨格です。詳しい仕組みは第7章で扱います。
短母音の終わり方
末子音のない短母音は、喉を締めてぱっと切ります。日本語の「あっ」の「っ」の部分に近い、声門を閉じる動きです。だらしなく伸ばすと長母音に聞こえてしまいます。
3-4二重母音 ── ia・a・ua
がコツです。2音節に割ってはいけません。
| 発音 | 母音字 | 成り立ち | 例 |
|---|---|---|---|
| ia | เ-ีย | ii → a | เมียmia (ミア) 妻/เรียนrian (リアン) 学ぶ |
| ɯa | เ-ือ | ɯɯ → a | เสื้อsɯ̂ a (スア) 服/เดือนdɯan (ドゥアン) 月 |
| ua | -ัว | uu → a | ตัวtua (トゥア) 体/หัวhǔa (フア) 頭 |
ここでも ɯa が難所です。唇を引いた「ウ」から「ア」へ移る。唇を丸めると ua になってしまい、เสื้อsɯ̂ a (服)が別の語に聞こえます。
限られた語にしか現れないからです。
3-5その他の複合母音
基本母音や二重母音の後ろに -i や -o が付いた形です。専用の母音字を持つものと、母音字+子音字 ย/ว で書くものがあります。
| 発音 | 綴り | 例 |
|---|---|---|
| ai | ใ- / ไ- | ใจjai (ヂャイ) 心/ไปpai (パイ) 行く/ไม่mâi (マイ) 〜ない |
| ao | เ-า | เขาkhǎo (カオ) 彼/เอาao (アオ) 取る |
| am | -ำ | ทำtham (タム) する/คำkham (カム) ことば |
| ɔɔi | -อย | ร้อยrɔ́ɔi (ローイ) 100/คอยkhɔɔi (コーイ) 待つ |
| ooi | โ-ย | โดยdooi (ドーイ) 〜によって |
| ui | -ุย | คุยkhui (クイ) おしゃべりする |
| əəi | เ-ย | เคยkhəəi (クーイ) かつて〜した/เนยnəəi (ヌーイ) バター |
| iao | เ-ียว | เดี๋ยวdǐao (ディアオ) ちょっと・すぐ |
| uai | -วย | ด้วยdûai (ドゥアイ) 〜も・一緒に/สวยsǔai (スワイ) 美しい |
| ɛɛo | แ-ว | แล้วlɛ́ɛo (レーオ) もう・〜した |
| eo | เ-็ว | เร็วreo (レオ) 速い |
| iu | -ิว | หิวhǐu (ヒウ) 空腹だ |
-ĕำ(am)は形の上では母音字ですが、音としては短い a + 末子音 -m です。同じように ai は a + -y、ao は a + -w と考えると、
第6章(末子音)と第7章(声調規則)がすっきり理解できます。
3-6母音字はどこに付くか
タイ文字の母音記号は、子音字の上・下・左・右のどこにでも付きます。しかも1つの母音が複数の位置に分かれて付くこともあります。ここが日本語話者にとって最初の視覚的な壁です。
上
- -ิ -ี -ึ -ื
| 左 | + | 子音字 | + | 右 |
| เ- แ- โ- ใ- ไ- | ก | -ะ -า -อ -ย -ว |
下
- -ุ
母音記号は子音字の四方に付く。เ-ือ のように、左・上・右の3か所に分かれるものもある。
もっとも重要な原則は、これです。
読む順序は、書く位置と一致しない
- 左に書かれた母音(เ- แ- โ- ใ- ไ-)は、子音のあとに読む。เก は「エク」ではなく kee。
- 音節を読むときは、まず子音字を探し、その周囲の記号を集めてから音を組み立てる。
- 子音字は必ず1つ以上ある。母音記号だけの音節は存在しない。
次の一覧が、母音字の書式の全体像です。子音字 ก(k)を例にとって示します。
| 書式 | 発音 | 位置 | 例 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| -ะ | a | 右 | จะjà | 〜するつもり |
| -ั | a | 上 | วันwan | 日 |
| -า | aa | 右 | มาmaa | 来る |
| -ิ | i | 上 | กินkin | 食べる |
| -ี | ii | 上 | ดีdii | よい |
| -ึ | ɯ | 上 | หนึ่งnɯ̀ng | 1 |
| -ื | ɯɯ | 上 | มือmɯɯ | 手 |
| -ุ | u | 下 | คุณkhun | あなた |
| -ู | uu | 下 | ดูduu | 見る |
| เ-ะ | e | 左+右 | เตะtè | 蹴る |
| เ- | ee | 左 | เวลาwee-laa | 時間 |
| แ-ะ | ɛ | 左+右 | และlɛ́ | 〜と |
| แ- | ɛɛ | 左 | แม่mɛ̂ɛ | 母 |
| โ-ะ | o | 左+右 | โต๊ะtó | 机 |
| โ- | oo | 左 | โตtoo | 大きい |
| เ-าะ | ɔ | 左+右 | เกาะkɔ̀ | 島 |
| -อ | ɔɔ | 右 | ขอkhɔ̌ɔ | 求める |
| เ-อะ | ə | 左+右 | เยอะyə́ | たくさん |
| เ-อ | əə | 左+右 | เธอthəə | 君 |
| 書式 | 発音 | 位置 | 例 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| เ-ีย | ia | 左+上+右 | เมียmia | 妻 |
| เ-ือ | ɯa | 左+上+右 | เสื้อsɯ̂ a | 服 |
| -ัว | ua | 上+右 | ตัวtua | 体 |
| ใ- | ai | 左 | ใจjai | 心 |
| ไ- | ai | 左 | ไปpai | 行く |
| ☕เ-า | ao | 左+右 | เอาao | 取る |
| -ำ | am | 上+右 | ทำtham | する |
ใ- と ไ- ── 同じ音、違う字
の後に音が合流しましたが、綴りはそのまま残りました。助かるのは、ใ- を使う語が20語しかないことです。ใจjai (心)、ใหม่mài (新しい)、ใหญ่yài (大きい)、ในnai (〜の中)、ใช่châi (そうだ)、ให้hâi (与える)、ใกล้klâi (近い)など、日常語ばかりなので、使いながら自然に覚えられます。迷ったら ไ- が正解、という覚え方で十分です。
3-7短母音 -ะ は、末子音の前で - に変わるั
| 末子音なし | → | -ะ | / | 末子音あり | → | - |
| จะ jà | วัน wan |
短母音 a は、後ろに末子音が来ると書式が変わる。音はどちらも同じ短い a。
理由は単純で、-ะ は子音字の右に置く記号なので、そこに末子音字が来ると場所を奪われてしまうからです。そこで子音字の上に載る -ั に変身して、右の場所を末子音字に譲ります。
同じ現象は他の短母音でも起こります。เ-ะ は末子音の前で เ-็ に、แ-ะ は แ-็ に、เ-าะ は -็อ に変わります。共通しているのは、右に置かれていた ะ が上の小さな記号に置き換わるという発想です。
タイ語には、母音記号をまったく書かない音節があります。
คนkhon(人)は ค と น の2字だけ。รถrót(車)も2字だけ。それでも o の母音が入って読まれます。
節語では短い a が補われます(ถนนthà-nǒn 道路)。この省略はタイ語を読むうえで避けて通れませんが、規則としてまとめて扱うのは第8章です。今は「書かれていない母音がある」とだけ頭に入れておいてください。